関西学院大学 現代民俗学 島村恭則研究室

関西学院大学大学院 現代民俗学 島村恭則研究室

柳ヶ瀬と映画‐映画と人びとをめぐる都市民俗誌‐

柳ヶ瀬と映画‐映画と人びとをめぐる都市民俗誌‐
廣瀬彩乃
【要旨】
本研究は、岐阜県柳ケ瀬をフィールドに実地調査を行うことで、柳ケ瀬の形成、柳ケ瀬と映画館、人びとにとっての映画という存在を明らかにした。本調査で明らかになった点は、次の通りである。

1.柳ケ瀬が夜明けを迎えたのは、明治中頃であった。柳ケ瀬が注目されるようになったきっかけとして、「御大典記念勧業共進会」と「内国勧業博覧会」が挙げられる。この2つがきっかけで柳ケ瀬は独り立ちしていった。
2.県内での活動写真の始まりは、1897(明治30)年7月に国富座で上映された。その頃の活動写真の内容は現在のような物語ではなく、芸子の手踊りなどを永遠に撮影し続けたものであった。
3.映画の専門館ができる前の映画上映は、巡業であった。現在も、学校の体育館などでフィルムや機材を持ち込み映画を上映する会社が本巣郡北方町にある。大正中頃になると活動写真がブームとなり、活動写真は人びとの娯楽の中心となっていった。
4.日本映画人口のピークは1958年であり、年間の入場者数は11億2700万人であった。柳ケ瀬に映画館が立ち並び始めたのもこの頃であり、柳ケ瀬には12個の映画館があった。映画館は多くの人で賑わい、時には場内に入りきらないほどの人びとが訪れた。
5.戦時中、フィルム統制が行われ、映画の内容は、戦争意欲を高めようとするものばかりであり、娯楽であった映画は戦争に利用されるようになった。映画館は武器などを保管する倉庫にされ、多くの映画館は閉館していった。
6.戦後の柳ケ瀬の復興を支えたのは娯楽であった。空襲で焼失した建物をバラック掛けでいち早く再建し、映画を上映した。
7.1970年代柳ケ瀬には18個の映画館があった。現在は、ロイヤル劇場とCINEXのみになっている。単館系の映画館が閉館していく仕組みは、大きなシネコンができ、お客さんが入る人気映画のフィルムが回ってこなくなり、上映できるものが限られてくるため、人が入らなくなってしまうからだと考えられる。
8.自主制作映画を柳ケ瀬で撮り続けるということは、街の生き証人になるということである。日々移り変わる街を撮る。そこに街で撮るおもしろさがある。
9.映画サークル「みるサークル」の主な活動は以下の3点である。
①映画の上映会
②映画祭の手伝い
③映画鑑賞会の実施

【目次】
序章・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4                
第1章 柳ヶ瀬と映画・・・・・・・・・・・・・・・・・・6             
第1節 柳ケ瀬の形成・・・・・・・・・・・・・・・・・・6           
第2節 柳ケ瀬の繁栄と映画館の誕生・・・・・・・・・・・7   
第3節 映画ブーム・・・・・・・・・・・・・・・・・・・9        
第4節 戦争と映画・・・・・・・・・・・・・・・・・・・12              
第2章 映画館・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・16                
第1節 柳ケ瀬の映画館・・・・・・・・・・・・・・・・・16              
第2節 ロイヤル劇場・・・・・・・・・・・・・・・・・・24             
第3章 柳ケ瀬で撮る‐石榑珈琲店 石榑昇司氏‐・・・・・32 
第1節 石榑珈琲店 石榑昇司氏・・・・・・・・・・・・・32         
第2節 柳ヶ瀬で撮る・・・・・・・・・・・・・・・・・・33               
第4章 柳ケ瀬で見る‐映画サークル「みるサークル・・・・36 
第1節 映画サークル「みるサークル」・・・・・・・・・・36        
第2節 柳ヶ瀬で見る・・・・・・・・・・・・・・・・・・38                
結語・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・42               
文献一覧・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・43                 
謝辞・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・44                       

【本文写真から】

オールナイト上映を知らせる看板

映画のワンシーンを切り取ったスチール写真

ロイヤル劇場の正面看板

1970年頃の柳ケ瀬の映画館

映画サークル「みるサークル」の方々

【謝辞】
本論文の執筆にあたり、多くの方々にご協力をいただきました。
 お忙しい中、岐阜市の映画館の歴史、戦争と映画の関わりについてのお話を聞かせて下さり、写真を提供していただいた、館長・近藤良一氏をはじめとする羽島市歴史民俗資料館・映画資料館の皆さん。ロイヤル劇場のお話を聞かせて下さった、松川勝由紀氏。自主制作映画についてお話下さった、石榑昇司氏。映画サークルについてのお話を聞かせて下さった、山口友康氏、乙部裕樹氏、榊原有望氏。今回ご協力いただいた全ての方々に、心よりお礼申し上げます。本当にありがとうございました。