関西学院大学 現代民俗学 島村恭則研究室

関西学院大学大学院 現代民俗学 島村恭則研究室

大須と浅草 ー観音のまちの比較研究ー

宮本 悠花

 

【要旨】

 本研究は、愛知県名古屋市に位置する大須と東京都台東区に位置する浅草をフィールドに寺と神社、祭り、盛り場の3つの視点から調査を行い、門前町として栄えた2つの観音のまちを比較することで、今日に至るまでにどのように形成、発展したのかを明らかにしたものである。本研究で明らかになった点は、つぎのとおりである。

 

1.寺と神社に関して、大須は本来、清須越を経て岐阜県羽島市大須から現在の地に移った背景を持ち、大須観音を始めとした万松寺や七つ寺などの大須の寺院の多くが、清須越により名古屋に移されたものである。観音に注目すると、大須観音の聖観音は大阪の摂津四天王寺の観世音菩薩が移されたものである。

 2.浅草は浅草寺を中心に浅草寺の末寺や支院が多く、またそうでない寺院も始めから浅草の地に建立されたものが多い。観音に注目すると、浅草寺の聖観音は漁労中に宮戸川で発見されたと言われるものである。

 3.祭りに関して、浅草寺には三社祭という規模の大きな例大祭があるのに対し、大須観音は例大祭というより、様々な年中行事が衰退と再生を経て現在も行われている点で異なる。

 4.新しく始まった現代の祭りとして、大須の大同町人祭や浅草のサンバカーニバルなどの似ている祭りもある。

 5.盛り場に関して、大須は清須越により人工的に造られ寺社や家が計画的に配置された町であり、寺社や商店街の人々と共に衰退と再生を経て発展していったことに対し、浅草は観音の出現当初から宗教的集落として観音の圧倒的な存在感と共に発展していった盛り場である。

 

【目次】

序章 問題と方法

第1章 寺と神社

 第1節 大須    

  (1)大須観音

  (2)清寿院

  (3)万松寺

  (4)七つ寺

  (5)富士浅間神社

 第2節 浅草

  (1)浅草寺

  (2)浅草神社

  (3)浅草富士浅間神社

  (4)待乳山聖天

  (5)大観音寺

  (6)石浜神社

  (7)吉原神社

第2章 祭り

 第1節 大須

  (1)大須観音の年中行事

    ・左義長祭り

    ・大正琴大祭

    ・馬の塔

    ・歯歯塚、人形、扇供養会

  (2)大須大道町人祭

 第2節 浅草

  (1)三社祭

  (2)サンバカーニバル

  (3)大根まつり

第3章 盛り場

 第1節 大須

  (1)清須越

  (2)大須の形成

  (3)盛り場大須

  (4)宗春の時代

  (5)旭遊郭

  (6)大須二十館

  (7)衰退と再生

 第2節 浅草

  (1)近世以前の浅草

  (2)浅草と米蔵

  (3)吉原遊郭

  (4)奥山

  (5)仲見世

  (6)浅草公園

  (7)六区映画街

  (8)観光地としての再生

結び

文献一覧

 

【本文写真から】

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写真1 左義長火祭り(出典:大須ほっとニュース)

 

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写真2 第42回大須大道町人祭 ポスター(出典:第42回大須大道町人祭)

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写真3 びんざさら舞(出典:金龍山浅草寺編『図説浅草寺』金龍山浅草寺、1996年)

 

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写真4 船渡御(出典:Wa☆Daフォトギャラリー)

 

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写真5 現在のサンバカーニバル(出典:浅草観光連盟)

 

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写真6 「万治年間名古屋絵図」 (出典:名古屋城ウェブサイト)