関西学院大学 現代民俗学 島村恭則研究室

関西学院大学大学院 現代民俗学 島村恭則研究室

山の管絃祭ー広島県中山間地域における厳島系祭礼をめぐってー

社会学部 鈴木祐花

 

【要旨】

本研究は広島の中山間地域において行われている管絃祭について、可部、千代田、吉田をフィールドに実地調査を行うことで、海上祭礼である厳島の管絃祭に対して山の管絃祭とはどのようなものであるか歴史的背景などを交えながら明らかにするものである。本研究で明らかになった点は、次のとおりである。

 

  1. 厳島は厳島神社だけではなく島全体が信仰の対象であり神が宿る島として人びとの信仰を受けながらも、鎌倉時代以降は商業や交通の要所としての側面も持ち合わせるようになり、神と人々の生活が共存している島といえる。
  2. 厳島神社は市杵嶋姫命を祭神とし、平清盛や毛利元就などの名高い名将たちの信仰を受け、これが各地での厳島信仰の広がりに繋がった。厳島信仰の拡大により、海上交通の安全祈願だけでなく、五穀豊穣や災害忌避などの祭祀も行われるようになった。
  3. 管絃祭とは旧暦6月17日に行われる厳島神社の夏の祭礼行事であり、管絃船と呼ばれる船の上で様々な管絃を演奏しながら、対岸の地御前神社などいくつかの場所を巡り神事を行う祭りである。浄土信仰が盛んだった時代に清盛によって始められた法華経読誦の中で管絃の演奏が行われていたことを由来とし、室町時代に「管絃経」、江戸時代に「管絃講」と名前を変え現在の管絃祭になったとされている。
  4. 可部の明神祭は厳島神社と同じ市杵嶋姫命を祭神とする明神社の夏の大祭である。かつて川船交通の要衝として栄えていた時代は、神社前にあった船着き場に船を浮かべ神事が行われていた。現在は公園となったその場所で奉納神楽が行われている。山陰地方で栄える神楽を海の祭りである管絃祭に取り入れている点が、中山間地域である可部ならではの特徴である。
  5. 千代田の管絃祭の大きな特徴が陸船である。かつて千代田は厳島荘園であったという歴史的背景から管絃祭が行われるようになったと考えられる。周りに海がないため道路を海と見立て、陸船を揺らしながら動かすことで海の上を進んでいるように見せるという点など、まさに山の管絃祭といった千代田独自の文化が存在している。
  6. 吉田はかつて毛利元就が治めていた地であり、菅絃祭にも元就との関係の深さが表 れている。神事が毛利公武者絵巻のストーリーの一部として組み込まれており、吉田の歴史を感じる祭りとなっている。また、厳島神社を治めていた佐伯氏の領地であったことも関係していると考えられる。さらに、奉納神楽も行われ、水上交通の安全を願う海の祭りと五穀豊穣を願う山の祭りが融合した形になっている。
  7. この3地区の祭りを山の管絃祭と一言で言っても、行われている内容や祭りの歴史的背景は全く異なるものであり、三者三様である。川や船といった厳島神社を模している部分もそれぞれの祭りに存在してはいるものの、その地域の歴史や文化などを大きく反映した独自の祭りが行われている実態がある。

 

 

【目次】

序章 研究の趣旨⋯⋯⋯1

 はじめに⋯⋯⋯2

第1章 厳島神社と管絃祭⋯⋯⋯3

 第1節 厳島⋯⋯⋯4

 第2節 厳島神社⋯⋯⋯6

 第3節 管絃祭⋯⋯⋯9

第2章 可部の明神祭⋯⋯⋯14

 第1節 可部のまち⋯⋯⋯15

 第2節 祭りの流れ⋯⋯⋯16

 第3節 厳島との関わり⋯⋯⋯18

第3章 八重管絃祭⋯⋯⋯19

 第1節 千代田のまち(現・北広島町)⋯⋯⋯20

 第2節 祭りの流れ⋯⋯⋯20

 第3節 陸船⋯⋯⋯23

 第4節 厳島との関わり⋯⋯⋯23

第4章 吉田の管絃祭⋯⋯⋯25

 第1節 吉田のまち⋯⋯⋯26

 第2節 祭りの流れ⋯⋯⋯26

 第3節 武者絵巻⋯⋯⋯28

 第4節 厳島との関わり⋯⋯⋯32

結語 まとめ⋯⋯⋯33

 おわりに⋯⋯⋯34

文献一覧⋯⋯⋯36

 

 

【本文写真から】

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写真1 明神社での明神祭

 

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写真2 明神祭での神事の様子

 

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写真3 河本明神

 

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写真4 今田八幡神社

 

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写真5 吉田の管絃祭での奉納神楽の様子

*広西章史氏提供

 

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写真6 武者絵巻の様子

*広西章史氏提供

 

 

【謝辞】

 本論文の執筆にあたって、多くの方々のご協力をいただきました。八重管絃祭について貴重なお話を聞かせてくださった北広島町観光協会会長の山口様、平田様をはじめとする観光協会の方々、また、吉田の管絃祭についてお話を聞かせてくださった管絃祭実行委員長の広西様、皆様お忙しい中大変真摯に取材にお応えいただき、心より感謝申し上げます。文献や資料が少ないなかでこの論文を完成させることができたのは、取材に関わってくださった全ての皆様のおかげです。本当にありがとうございました。