関西学院大学 現代民俗学 島村恭則研究室

関西学院大学大学院 現代民俗学 島村恭則研究室

焼物のまちと陶器市ー京都・五条坂と清水焼団地の事例ー

田中香帆

 

【要旨】

本研究は、京都の陶器市について、京都市東山区の五条坂と山科区の清水焼団地をフィールドに実地調査を行うことで、焼物の町における陶器市とはどのようなものであるのか、町の人々から陶器市はどう扱われてきたのかということを、都市民俗学の視点を踏まえて明らかにしたものである。本研究で明らかになった点は、次のとおりである。

 

1.五条坂の「陶器まつり」は大正時代の初め頃、六道まいりや大谷本廟へのお墓参りに来た人々を目当てに始まった「陶器市」がもととなっていた。第二次世界大戦後、強制疎開により五条通りの南側一帯の建物が失われ、「陶器市」も一時中断された。

 

2.昭和24(1949)年には、神様に見守っていてもらうことで精進していきたいという五条坂の陶器業界の人々による熱い思いから、五条通りにある若宮八幡宮の本殿に陶器の神様である椎根津彦命が合祀され、陶器神社が生まれた。

 

3.陶器神社ができたことをきっかけに、「陶器市」の名称は現在の「陶器まつり」へと変わった。町の人々は戦後の町を頑張って盛り上げようという思いのもと、神社と一体になって「陶器まつり」を行った。その後、他産地からの店や陶器以外の露店も増え、多くの人が訪れるようになった。

 

4.昭和30年代になると、飾るための陶器神輿と、顔以外の部分が陶器を組み合わせてできた陶器人形が制作され、「陶器まつり」の期間に若宮八幡宮の境内で展示されるようになった。その後ともに荒廃してしまうが、陶器業界の人々の思いから昭和62(1987)年に担ぐ陶器神輿が作られ、陶器人形も平成26(2014)年に大学の学生らと町の人々によって復活を遂げ、5 年間ほど制作と展示が行われていた。

 

5.「陶器まつり」が定着してからも、陶器業界の人々と神社が協力しながら、焼物の町の「陶器まつり」に来た人々が陶器を買って神社にお参りし、楽しい思い出が残るようにと時代に合わせて催しが行われてきた。現在も「陶器まつり」は多くの人を集める夏の風物詩となっている。

 

6.清水焼団地は、登り窯による公害や土地の問題、京都の陶磁器業が持つ問題がきっかけとなって作られた、陶磁器産業のための町であった。そしてこの産地の広がり方は、焼物に向いた土が取れない京都ならではのものでもあった。

 

7.昭和 50(1975)年からはこの地でも「陶器まつり」が行われるようになり、その後「清水焼の郷まつり」と名称が変更された。交通の面などの苦労もありながら、地域とのかかわりや客との繋がりが大切にされてきた。

 

8.以上のように、本研究で取り上げた2つの陶器市は、どちらも陶器業界や町の人々が自分たちの焼物の町を大切に守り、盛り上げようと努力を重ねた末に形づくられたものであることが分かった。

 

 

【目次】

序章

 第1節 問題の所在

 第2節 都市民俗学と市 

 第3節 京都の陶器市 

第1章 「陶器市」の発生と展開

 第1節 昭和初期までの「陶器市」 

 第2節 戦争による中断と再開

(1)「陶器市」の中断と再開

(2)陶器神社

第2章 「陶器市」から「陶器まつり」へ

 第1節 まつりの誕生

 第2節 陶器神輿と陶器人形

 第3節 「陶器まつり」の現在

第3章 清水焼団地

 第1節 清水焼団地の誕生

 第2節 「清水焼の郷まつり」

結び

文献一覧

 

 

【本文写真から】

f:id:shimamukwansei:20210112013805p:plain

写真1 昭和14(1939)年頃の「陶器市」

*『思い出の五条坂』(五条坂陶栄会、1981年発行、2頁)より。

 

f:id:shimamukwansei:20210112014242j:plain

写真2 若宮八幡宮の本殿(筆者撮影)

椎根津彦命が合祀されている。

 

f:id:shimamukwansei:20210112014358j:plain

写真3 昔の陶器人形

*「五条坂陶器まつりの始まり」(https://kyotolove.kyoto/I0000107、2021年1月6日現在)より。

 

f:id:shimamukwansei:20210112014551j:plain

写真4 現在の陶器神輿

*「若宮八幡宮社ホームページ」(https://wakamiya-hachimangu.jp/event/、2021年1月6日現在)より。

 

f:id:shimamukwansei:20210112014749p:plain

写真5 昭和42(1967)年の清水焼団地

*『新天地を求めた京焼 清水焼団地五十年の歩み』(森野彰人編、2011年発行、28頁)より。

 

f:id:shimamukwansei:20210112015001p:plain

写真6 昭和56(1981)年の第7回「陶器まつり」

*『清水焼団地協同組合創立50周年記念 清水焼団地五十年の歩み』(森野彰人編、2011年発行、35頁)より。

 

 

【謝辞】

本論文の執筆にあたり、多くの方々からのご協力をいただきました。お忙しいなかお時間をいただき、五条坂の陶器市についてお話を聞かせてくださった河崎尚志氏、松井曜子氏、清水焼団地の陶器市についてお話を聞かせてくださった熊谷隆慶氏のご協力なしには、本論文は完成にいたりませんでした。今回の調査にご協力いただいた全ての方々に、心よりお礼申し上げます。本当にありがとうございました。