関西学院大学 現代民俗学 島村恭則研究室

関西学院大学大学院 現代民俗学 島村恭則研究室

シュロをめぐる民俗誌ー和歌山県海南市・有田川町における事例ー

社会学部 米田一揮
【要旨】
本研究は和歌山県海南市有田川町を調査地域として、シュロ利用の歴史およびシュロをめぐる人々の生活と蓄えられた知識を文献資料および聞き取り調査の結果をもとにしてまとめたものである。
本研究で明らかになったことは以下の通りである。
1.かつてワジュロは和歌山県を代表する産物の1つとして広く認識されていて、海南市では山から都市部へとシュロ皮を運ぶ野上電気鉄道が作られるなど人々の生活に欠かせないものになっていた。しかし、安価な輸入品の台頭などで影響力が低下して、栽培もほとんど行われなくなったためほとんどの人から忘れられた存在となっていた。
2.野上電気鉄道はワジュロを運搬する列車から地域の人々の足となるような列車へと役割を変えていき、地域に貢献していた。現在は廃線しているが、その線路跡が自転車歩行者専用道路に生まれ変わり、自転車や歩行者が通るには狭くなっている道幅の場所がある国道沿いを通行するよりも安全に通行できるようになっていて、実体としては見えなくなっているが形を変えながら地域に貢献している。
3.山本勝之助商店の土田高史氏は手入れされていないワジュロを使った値段の高いシュロ製品を消費者に販売するよりも、手入れがされていて消費者の手が届きやすい値段のトウジュロを使った製品を販売した方がお互いのためになると考えていて、現在のところはトウジュロを使った製品を販売している。
4.安価なトウジュロを使った商品の環境への影響を疑問に思った高田耕造商店の高田大輔氏は、忘れられたワジュロを復活させれば唯一無二の存在になれると考え、シュロ山を復活させるべく奔走した。
5. 高田大輔氏の努力の甲斐もあって、有田郡有田川町において手入れがされていなかったシュロ山が蘇り、ワジュロの製品が増加してきた。

[目次]

序章------------------------------------5


第1章 紀北とシュロ---------------------7


第1節 紀北の歴史----------------------8
第2節 シュロの特徴--------------------8
第3節 シュロ利用の歴史---------------11


第2章 山本勝之助商店------------------14


第1節 山本勝之助商店の来歴-----------15
第2節 山本勝之助商店と野上電気鉄道---20
第3節 土田高史氏のライフヒストリー --32


第3章 高田耕造商店--------------------35


第1節 高田耕造商店の来歴 ------------36
第2節 たわしの歴史-------------------39
第3節 高田大輔氏のライフヒストリー --39


第4章 シュロ山の現状と生産者----------42


第1節 シュロ山の現状-----------------43
第2節 西脇直継氏のライフヒストリー---50


結語 ----------------------------------55


謝辞 ----------------------------------57

文献一覧 ------------------------------58


写真1 野上電気鉄道の車両(尼崎センタープール前駅にて撮影)

写真2 野上電気鉄道の線路跡

写真3 有田郡有田川町のシュロ山

写真4 シュロ皮を剥ぐ様子

写真5 出荷されるシュロ皮の繊維

【謝辞】
本論文を執筆するにあたって和歌山県海南市の高田耕造商店の高田大輔さん、山本勝之助商店の土田高史さん、和歌山県有田川町の西脇製縄所の西脇直継さんと妻の栄子さんには、お忙しい中、貴重な時間を割いてお話ししていただきました。特に西脇さんにはシュロの木を採取したりシュロ皮を木から剥いだりする実際の様子を見せてもらうだけでなく、シュロ縄をいただけたことや訪問後にも電話で何回もお話を聞かせていただけたことによって、より一層シュロに関する理解を深めることができました。これらの方々のご協力なしには、本論文は完成に至りませんでした。この場をお借りして、調査にご協力いただいた全ての方々に、心よりお礼申し上げます。本当にありがとうございました。