関西学院大学 現代民俗学 島村恭則研究室

関西学院大学大学院 現代民俗学 島村恭則研究室

説教の消長―「節談説教」の発見と展開―

社会学部 榎木優里子

【要旨】

本論文は、浄土真宗で行われる「説教」を、どのような人たちが、いかなる考えや欲求を持って関わり、実践してきたのかを、文献調査と聞き取り調査によって明らかにしたものである。
本研究で明らかになったことは次のとおりである。

1、関山和夫氏が、日本芸能史研究の立場から、忘れ去られようとしていたかつての説教に着目し、「節談説教」と名付け、話芸との関わりにおいて再評価した。

2、関山氏の研究に刺激を受けた小沢昭一氏らが、「芸能」の立場からアプローチしたムーブメントを起こし、世に広めたが、当時の布教現場では再評価には至らず、「節談説教」の継承もされなかったことで「節談説教」の説教者は数えるほどにまで減少した。

3、数十年後、布教現場における聴聞の伝統喪失に危機意識を持った僧侶らが、「布教」としての「節談説教」が持つ価値に気づき、「現代に生きる布教」として再興させた。

4、結成された「節談説教研究会」は、僧侶と研究者を内包し、資料の発掘、後継者の育成、布教大会による「節談説教」の普及活動を行っている。

5、「説教」の一流派であった「東保流説教」は、獲麟寮閉寮と共に衰退していた。しかし、継承者が伝承を始め、「洗聲会」という勉強会が発足させ、活動を開始したことで再生した。現在は、古典の台本を弁じるという伝承と、新作を作るという創造の両方が実践されている。特に、決められた「型」を守り、伝統を継承していくことを重んじている。

6、「節談説教研究会」は、台本の創作、説教の実演・合評に力を入れる一方、説教以外の他ジャンルの表現者とのクロスオーバーをはじめとする、様々な角度からの「説教者」として生きる方法を学んでいる。

7、「節談説教」を知るきっかけは、説教本や採録音源だけでなく、近年は動画サイトがその役割を果たしている。


【目次】

序章—————————————————————————————————————————————1

 問題の所在-------------------------------------1

第1章 「節談説教」の発見———————————————————————2

 第1節 関山和夫氏-----------------------------2

 第2節 小沢昭一氏-----------------------------2

 第3節 布教現場の受け止め方-------------------4

第2章 「お聴聞」の衰退と布教現場の危機感———————6

 第1節 節談説教布教大会-----------------------7

 第2節 節談説教研究会-------------------------7

第3章 「東保流説教」の再生—————————————————————10

 第1節 「東保流説教」とは---------------------11

 第2節 竹内文昭氏-----------------------------11

 第3節 洗聲会---------------------------------12

  (1)会の発足-------------------------------12
  (2)活動内容-------------------------------13
  (3)池本史朗氏の語り-----------------------14
第4章 「節談説教」の現在———————————————————————17
 第1節 「節談説教研究会」----------------------18

  (1)説教者育成セミナー---------------------18
  (2)錬成会ー-------------------------------18
  (3)勉強会---------------------------------18
  (4)布教大会-------------------------------23
 第2節 「節談説教」の担い手たち————————————————24

  (1)直林不退氏-----------------------------24
  (2)蕚慶典氏-------------------------------28
  (3)鐵重宗峻氏-----------------------------34

結語—————————————————————————————————————————————37

文献一覧—————————————————————————————————————————38

謝辞—————————————————————————————————————————————38


【本文写真から】

写真1「節談説教研究会」東京地区勉強会での台本作りのための書き換えテスト


写真2「節談説教研究会」東京地区勉強会での実演の様子


写真3「洗聲会」講習会の様子

【謝辞】

 本論文を執筆するにあたり、多くの方にご協力いただきました。
お忙しい中お話をお聞かせくださった直林不退氏、蕚慶典氏、鐵重宗峻氏、および節談説教研究会の皆様。池本史朗氏、および洗聲会の皆様。報恩講にお迎えくださった常光寺の皆様。これらの方々のご協力なしには、本論文は完成に至りませんでした。今回の調査にご協力いただいた全ての方々に、心より感謝申し上げます。本当にありがとうございました。