関西学院大学 現代民俗学 島村恭則研究室

関西学院大学大学院 現代民俗学 島村恭則研究室

船場のいとはん幸ちゃん物語

船場のいとはん幸ちゃん物語

五條菜央

【要旨】本研究は、船場の商家の娘のライフヒストリーについて、船場をフィールドに昭和8年に商家の娘として生まれた幸子に聞き取り調査を行うことで、船場の商家の暮らしや、船場商家の娘のライフヒストリーについて明らかにしたものである。本研究で明らかになった点は以下の通りである。


1. 戦前の商家の奥さんにはあまり宝石を身につける習慣はなく、宝石を集めるよりも、茶道具を集めることに凝っていた。

2. 戦後、船場の家が焼けてしまう。大阪に住む商人は、芦屋や夙川などの阪神間に別荘を建てることが流行しており、同様に幸子の親戚は芦屋に別荘を持っており、そちらに移り住む。幸子は大阪住吉に移り住むが、そこでも女中を雇っていたりと、船場での生活が垣間見れた。

3. 商家の娘の結婚とうのは、結婚する本人同士のものではなく家同士のもので、見合いをするということは話がまとまったも同然であった。結婚や養子入りを通して財界人との繋がりを作っていた。しかし、幸子の娘が見合いする時は、見合いは一度だけということはなく、何回か見合いをおこなった。

4. 嫁入り道具にも、幸子と幸子の娘では変化が見られた。幸子の場合は、着物や桐の箪笥、桐の机や本棚、疎開させて残った茶道具などであった。幸子の娘の場合は宝石や着物、メイプルの箪笥やクローゼットなどで、生活様式の変化に伴い変化していった。

5. 幸子は教養として結婚前には茶道、華道、謡、太鼓、ピアノ、編み物などを習得していた。結婚後には、新たに絽刺しやグラスリッツェンを始める。謡は親戚皆が同じ先生に習っており、そこが社交の場でもあり、また新たに財界人と知り合うきっかけの場でもあった。

【目次】
序章―――――――――――――――――――――─――4
 第1節 問題の所在……………4
 第2節 船場……………5
 第3節 岩田家……………6

第1章 船場時代――――――――――――――――――10
 第1節 幸子誕生から小学校4年生まで……………10
  (1)幸子生い立ち……………10
  (2)久宝寺の家……………10
 第2節 幸子を取り巻く人々……………12
  (1)つね……………12
  (2)徳三郎……………12
  (3)知恵……………13
 第3節 日々の生活と年中行事―――――――――――14
  (1)日々の生活……………14
  (2)年中行事……………15
 第4節 女中の男士……………16
  (1)女中男士の役割……………16
  (2)女中の待遇……………17

第2章 一宮時代――――――――――――――――――19
 第1節 一宮での生活……………19
 第2節 戦時中の船場……………21

第3章 住吉時代――――――――――――――――――23
 第1節 住吉……………23
 第2節 戦後の岩田商事……………24
 第3節 戦後の岩田家……………27

第4章 夙川•芦屋時代――――――――――――――――30
 第1節 お見合いと結婚……………30
 第2節 夙川での生活……………34
  (1)夙川……………34
  (2)女中……………35
  (3)子育て……………36
 第3節 芦屋での生活……………37
  (1)芦屋…………… 38
  (2)教養……………38
  (3)婿探し……………40
  (4)老後の暮らし……………41


結語―――――――――――――――――――――─――46
文献一覧―――――――――――――――――――――─47


【本文写真から】

幸子結婚式親族集合写真。


幸子嫁入り道具。永楽五色の皿。


幸子の作った絽刺しの着物

【謝辞】
 今回の調査において、話者の近藤幸子氏にはたくさんのお話を聞かせて頂きました。また、お話だけではなく、写真提供を頂いたり、実際に資料を見せて頂きました。また幸子氏の娘、弘子氏にもたくさんお話をうかがわせていただきました。心より御礼申し上げます。