関西学院大学 現代民俗学 島村恭則研究室

関西学院大学大学院 現代民俗学 島村恭則研究室

野原のアキナイ―舞鶴市野原における広域行商の70年―

野原のアキナイ―舞鶴市野原における広域行商の70年―

阿部みなみ


【要旨】

本研究は、京都府舞鶴市野原地区をフィールドに実地調査を行なうことによって、アキナイと呼ばれる広域行商の現在の様子を解明し、先行研究から得られた過去のアキナイの様子とともに、野原のアキナイの70年の歴史をたどったものである。本研究で明らかになった点は、以下のとおりである。

1.野原は漁港を備えた漁村であるが、かつてはその地形から冬は海が荒れ、魚をとることができなかった。そこで冬に内陸地へ海産物を持っていくというアキナイをするようになり、収入を得るひとつの手段とした。

2.江戸時代から続くとされるアキナイは、現在も漁業、農業、民宿とともに生業のひとつとなっており、野原地区68世帯中40世帯がアキナイをしている。

3.商品は、ワカメ、イワノリ、ジャコ、コンブ、エビジャコ、ヘシコ(イワシのぬか漬け)、干物といった海産物であり、今も昔もあまり変化はない。しかし、ヘシコは現在あまり作られておらず、コンブは1960年代前半頃に、得意先の要望により新たに商品となった。ワカメ、ノリなど多くの商品は野原産のものであるが、コンブは北海道産の一等品を仕入れ、商品としている。商品は質の良さが売りで、「野原コンブ」、「野原ワカメ」といったブランド性を持つ。

4.漁業、農業、民宿といった他の仕事とアキナイを兼業している場合が多いため、それらの仕事の合間に年4回ほどアキナイへ行く。アキナイへ行く際は、時期に合わせた商品を持っていく。

5.内陸地を目指して開拓された得意先は、長野県、岐阜県周辺といった中部地方をはじめ、関東地方、近畿地方、中国地方にまでおよんでいた。自動車でアキナイへ行くようになってから、近場である滋賀県岐阜県へ行く人が多くなったが、現在も山梨県へ行っている人もいる。

6.得意先は、基本的に先代から引き継ぎ、現在が3代目だという家が多い。また、得意先を自分で新たに開拓する、もしくは得意先に新たな得意先を紹介してもらうといった例もある。近年、スーパーマーケットや通信販売の普及、食生活の変化などにより、商品を買ってもらえないようになり、得意先が減ってきている。

7.かつては船、徒歩で得意先へ行っていたのが、汽車中心となり、1960年代後半からは自動車で行くようになった。現在も自動車で行っている。

8.遠方の地域へアキナイに行く際は、旅館などを拠点とし、何日間か滞在しながら周辺の得意先をまわる。かつては商人宿やなじみの宿・民家を拠点としていた。現在はなじみの旅館やビジネスホテルを拠点としている。


【目次】

序章 問題と方法―――――――――――――――――――――――――――─―3
 第1節 問題の所在‥‥‥‥‥‥‥‥3
 第2節 舞鶴市野原‥‥‥‥‥‥‥‥4
 第3節 野原と行商‥‥‥‥‥‥‥‥5

第1章 戦前のアキナイ―――――――――――――――――――――――─――7
 第1節 行商人‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥7
 第2節 時期‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥8
 第3節 商品‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥8
 第4節 得意先‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥8
 第5節 運搬‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥9

第2章 60年代のアキナイ―――――――――――――――――――――――─11
 第1節 行商人‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥11
 第2節 時期‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥12
 第3節 商品‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥12
 第4節 得意先‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥13
 第5節 運搬‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥14
 第6節 取引方法‥‥‥‥‥‥‥‥‥14

第3章 80年代のアキナイ―――――――――――――――――――――――─17
 第1節 行商人‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥17
 第2節 時期‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥18
 第3節 商品‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥18
 第4節 得意先‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥18
 第5節 運搬‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥19
 第6節 取引方法‥‥‥‥‥‥‥‥‥20
 第7節 アキナイと民宿‥‥‥‥‥‥20
 
第4章 アキナイの現在――――――――――――――――――――――――――23
 第1節 広域行商の現在‥‥‥‥‥‥23
 第2節 行商人たち‥‥‥‥‥‥‥‥25
  (1)Aさん‥‥‥‥‥‥‥26
  (2)Bさん‥‥‥‥‥‥‥27
  (3)Cさん‥‥‥‥‥‥‥28
  (4)Dさん‥‥‥‥‥‥‥29
  (5)Eさん‥‥‥‥‥‥‥32
  (6)Fさん‥‥‥‥‥‥‥32
  (7)Gさん‥‥‥‥‥‥‥33
  (8)Hさん‥‥‥‥‥‥‥33

結語―――――――――――――――――――――――─―――――――――――35

文献一覧―――――――――――――――――――─―――――――――――――43


【本文写真から】



野原の漁港と海水浴場



商品にする魚やイカを干している様子



商品となる袋詰めしたコンブをダンボールに詰める様子


【謝辞】

本論における調査にあたり、野原の方々には大変お世話になりました。岩見氏、梅川氏、川崎清四郎氏とご家族の方々、柴田氏、柴田和子氏、城生氏、武田康司氏、武田武氏、浜崎正昭ご夫妻をはじめ、ご多忙にも関わらず、快くインタビューに応じて下さった方々、車で送って下さった方々、資料を快く貸して下さった方々、敬老会でお世話して下さった方々など、ご協力を賜ったすべて方に、心より御礼申し上げます。