関西学院大学 現代民俗学 島村恭則研究室

関西学院大学大学院 現代民俗学 島村恭則研究室

満州族のシャーマニズム ―孟門大堂の事例―

 

文秋荻

 

【要旨】

 

本研究は、満州族のシャーマニズムについて、中国黒竜江省ハルビン市双城区をフィールドに調査を行うことで、孟門大堂のシャーマニズムの事例を明らかにしたものである。本研究で明らかになった点は、次の通りである。

 

1.黒竜江省ハルビン市の双城区は古くからツングース系民族と深いかかわりがある土地であり、確証のある最古は殷朝まで遡ることが可能、粛慎から扶余、勿吉、靺鞨、契丹、黒水靺鞨、女真、モンゴル等を含む複数の少数民族、漢民族、満州族、長い歴史の中でツングース系の文化のひとかけらであるシャーマニズムは双城区に大きな影響を与えてきた。

 

2.孟門大堂のシャーマニズムにおいて、シャーマンの機能は大神(香童)と二神の二人によって果たされている。大神は憑依される肉体、二神は交流による働きをもってシャーマンである。

 

3.孟門大堂の大神は対外的に大神と呼ばれることを許容、しかし自分自身は香童であることを明確に認識している。

 

4.孟門大堂の大神は仙家によって選出される。そこに拒否権はなく、受け入れるまで心身の不調に陥り、受け入れて出馬した後一生香童である。それに対して二神は大神から指定可能、学習すれば務められる。

 

5.孟門大堂で信仰される仙家とは主に五種類の動物霊、通称「五大家」、「胡黄白柳灰」。うち胡仙はキツネ、黄仙はイタチ、白仙はハリネズミ、柳仙はヘビ、灰仙はネズミである。胡黄白柳灰が五大家と称される原因の一部として、キツネはその各種伝説や文学作品などにおける豊かな表象形態、イタチは臭腺から放出される匂いに含まれる物質による効果、ハリネズミは身体特性と満州族の神話伝説に現れるハリネズミの女神の存在、ヘビは中華民族の始祖とされる伏羲と女媧の身体特徴と脱皮の生物特性、ネズミは暗闇にて生活する習性や福建省の香鼠への崇拝、及び十二干支の最初にある特殊な立ち位置など、以上の可能性が挙げられる。

 

6.中国の東北地域で広く信仰されている保家仙も仙家の一種で、同時に出馬仙として 降り立つことも可能である。

 

7.仙家には仙門大堂という組織化された集団を持つ、集団組織に属さない仙家もいるが、その内部は掌教、領兵、護法、二排教主、穿堂報馬といったはっきりとした組織図を持っている。

 

8.孟門大堂は現在推定三代目まで持続しており、その伝承からは他宗教の痕跡が見られる。

 

9.孟門大堂の現在拠点、在籍仙家の数、活動開始時期、組織構成、オフィス及び住居の所在、香童(大神)の血族に特別庇護を与える例の存在が判明された。

 

10.孟門大堂の儀礼の実態、供え物の要求、送迎の祝辞、仙家から道教の特徴がみられる現象、仙家の憑依が香童(大神)への影響などが判明された。

 

 

 

【目次】

 

序章

 第1節 問題の所在

 第2節 双城区

 第3節 シャーマニズムとは

 

第1章 シャーマン

 第1節 分類

 第2節 成巫過程

 

第2章 仙家とその組織

 第1節 仙家とは

 第2節 保家仙

 第3節 仙門大堂

 

第3章 孟門大堂

 第1節 孟門のシャーマンたち

 第2節 孟門の仙家組織

 第3節 儀礼の実態

 

結語

 

文献一覧

 

 

 

【本文写真から】

 

写真1 保家仙

 

写真2 孟傅氏家族写真(写真中央老婦人)

 

写真3 文于氏家族写真(写真中央老婦人)

写真4 承旭門楼

 

写真5 南廟

 

写真6 供え物例(自作)