関西学院大学 現代民俗学 島村恭則研究室

関西学院大学大学院 現代民俗学 島村恭則研究室

薬師堂由来譚としての佐用姫伝説-奥州市胆沢の事例-

黒田楓香

 

【要旨】本研究は、岩手県奥州市胆沢をフィールドに、「松浦佐用姫伝説」についての実地調査を行うことで、この伝説が胆沢の地においてどのように形成され、また宗教的・社会的役割を果たしてきたかについて考察したものである。本研究で明らかになった点は、次の通りである。

 

1.水の神に供える犠牲としての佐用姫人柱伝説は全国的に分布している。「サヨ」という名には悲劇的な女性、遊行の宗教芸能者、神を迎える巫女性などの特徴が見出されており、胆沢の松浦佐用姫伝説に登場する「佐用姫」にもそれらの特徴が表れている。

 

2.胆沢の松浦佐用姫伝説は、内容上、ある程度のかたまりに分けられることができる。それぞれの構成要素に分けて検討してみると様々な伝説が上手く組み合わされて一体の伝説に仕上げられていることが明らかであった。

 

3.主な構成要素としては「長者伝説」「長者没落伝説」「道成寺物」「人柱伝説」「佐用姫伝説」「霊験譚」「仏教説話」「弁才天縁起」であった。そしてこのような複雑化した伝説の定着と成長を支えたのが「長者屋敷」である。

 

4.久須志神社の薬師堂には佐用姫が持っていた薬師如来が祀られている。佐用姫伝説全体がこの薬師堂の由来譚として、薬師如来のご利益を説く形で語られている。

 

5.当地の松浦佐用姫伝説は、元来、薬師堂に関係する宗教者(僧侶、巫女など)によって、もともと別の説話であったいくつもの構成要素が一体のものに仕立て上げられ、薬師堂のご利益を説くための説経として語られていたのではないかと推測される。そして、その説経が伝説化して今もなお語り継がれているのではないかと考えられる。

 

 

【目次】

 

序章

 

 第1節 問題の所在

 

 第2節 柳田國男による研究

 

 第3節 奥州市胆沢の概況

 

第2章 掃部長者

 

 第1節 長者物語

 

  (1)掃部長者の先祖

 

  (2)佐用姫伝説の中で語られる掃部長者

 

第2節 大蛇と化した長者の妻

 

 (1)道成寺物としての側面

 

 (2)長者の妻の正体

 

第2章 松浦佐用姫

 

 第1節 人身御供

 

  (1)一人目の人柱「花世姫」

 

  (2)虚空蔵菩薩の加護

 

 第2節 佐用媛人柱の伝承

 

  (1)サヨ姫の「神を迎える巫女性」

 

  (2)九州に伝わる佐用姫伝説

 

  (3)全国に伝わる佐用姫伝説

 

第3節 胆沢の佐用姫伝承

 

 (1)高山掃部長者屋敷跡・高山稲荷神社

 

 (2)垢取り石(宝寿寺境内)

 

 (3)化粧坂と薬師清水

 

 (4)四ツ柱

 

 (5)見分森

 

 (6)角塚古墳

 

第3章 法華経と薬師如来

 

 第1節 法華経の功徳

 

  (1)大蛇の退治

 

  (2)退治したその後

 

 第2節 久須志神社の薬師堂

 

 第3節 弁才天縁起としての佐用媛

 

  (1)竹生島の概況

 

  (2)「弁才天」という神様

 

  (3)佐用姫との関係

 

結語

 

文献一覧

 

【本文写真から】

f:id:shimamukwansei:20220110122024j:plain

写真1 久須志神社の薬師堂

f:id:shimamukwansei:20220110122150j:plain

写真2 薬師堂

f:id:shimamukwansei:20220110122315j:plain

写真3 薬師堂の看板

f:id:shimamukwansei:20220110122528j:plain

写真5 化粧坂

f:id:shimamukwansei:20220110122750j:plain

写真6 角塚古墳