関西学院大学 現代民俗学 島村恭則研究室

関西学院大学大学院 現代民俗学 島村恭則研究室

面花をめぐる伝承人と商品化 ―中国陝西省渭南市華県の事例―

劉嘉浩

 

【要旨】本研究は中国陝西省渭南市華県の下廟をフィールドとして、華県の面花の歴史、形態、用途、非物質文化遺産伝承人の選出にまつわる面花の変容に着目し、現代における面花の 姿、用途、役割 変容 、商品化の一連の変化 について 調査を行った。本調査で明らかになったのはつぎのとおりである。

 

1.面花の歴史は遡ると、漢代の面塑にたどり着くことができた。しかし、第二次世界大戦を経て、新中国成立し、その後も伝承しつつ面花が1960年代の中国文化革命に影響を及ぼし、迷信だということに叩かれ、一時伝承が途絶えたが、2004年にユネスコ「無形文化財遺産保護条約」が結んだことによって、非物質文化遺産に登録され、保護された。また、政府は保護におけるかなり力を入れており、非物質文化遺産伝承人という制度を設立し、商品化されていくことによって保護されると提唱しつつ今に至る。

 

2.面花の形態は100種類以上存在しており、面花は華県の人々の人生四大儀礼である生、婚、寿、葬の担い手となっているが、それだけでなく、二十四節気、祝日や春節などにも使われている。それぞれの儀式と祝日に応じて、使い方や使う種類、置き方にも違いがある。それを合計11種類の用途がある。まず人生四大儀礼である生、婚、寿、葬である子供の誕生と満月、完灯、結婚、お年寄り10の壽、葬式と死後と分けられている。それぞれ使う面花の種類や用途、意味が異なっている。そして、一年の行事の面花の使い方を年順に並ぶとお正月(旧暦春節)、龍頭節、清明節、看忙罢、六月六、棟上げと分けられ、それぞれの用途について明らかにした。

 

3.非物質文化遺産伝承人について、中国文化と観光部の「国家級非物質文化遺産代表性伝承人の認定および管理方法」をもとに、その選出方法と基準が明らかにできた。そして、その選出方法と基準に問題点が生じており、「特定の区域」から影響を及ぼすことについてこの区域の範囲は如何なるものか村、県、市、省それとも国家がはっきり示されず、曖昧な境となっている。また、そもそも非物質文化遺産ということに関して、明確に伝承がある非物質文化遺産があれば、面花のように、民間で口頭伝承に頼って明確の師匠弟子がはっきりしていないようなものもあり、それらを分けられていないのではないだろうか。そして、その伝承人たちは役割の中にある「実物と資料」は持っているかどうかも懸念付けられる。面花の場合だとこのような食べ物を媒体とした民俗事象はそもそもその実物が残せないということが事実である。また、それに伴う資料もほとんどなく、面花作りができる人の頭の中にいるということから考えると、この「実物と資料の保護」はそもそもできないということが理解できる。最後に、第五条の伝承人が備える素質について、どのように判断できるかが問題で、その判断基準は抽象的で、どのように、如何に伝承人が選定できるかが非常に曖昧立場となっている現状が明らかにした。

 

4.本調査では直接現在面花の非物質文化遺産伝承人であるリン氏に直接聞き取り調査を行い、非物質文化遺産伝承人に選出された経緯について知ることができたが、これらのことが「国家級非物質文化遺産代表性伝承人の認定および管理方法」に書かれている方法と基準とやや異なっていることに疑問を感じ、そして、リン氏が知っている祖母と話をし、リン氏の選出には師匠を証明しなければならないなどの条例を祖母に聞くと、リン氏はもう10数年前から面花作りをやめ、弟子の受け取りもしてなかった。そもそも面花作りは昔では女性の必修科目と言えるほどのもので、上手くできる人が珍しくない。また、弟子入りなどと言った師匠もなければ教わる基準もなかった。想像に任せた技術であるということを明らかにした。

 

5.そして、非物質文化遺産伝承人の選出にあたって闇について、非物質文化遺産伝承人に選ばれると政府から年単位で経費がもらえる。この「経費」いわゆ「金」に巡って非物質文化遺産伝承人の選抜に泥がついた。つまり、選出にあたってその一連の賄賂、偽物書類の作成と言った悪しきことが発生している。また、審査にあたって、評価結果はすべて審査員の主観によって、選ばれるものであり、その選出にあたって評価できる客観的なデータも明確に書いておらず、このうちに賄賂などの働きによって、その審査の判定も改訂されているではないだろうか。それにつき加え、非物質文化遺産伝承人であるリン氏は今回の聞き取り調査では直言しなかったが、祖母の話によると、リン氏の子供は当時県長であり、1990年代だと現在とは異なり、人間関係などでいろんなことができる。その子供の仕事の原因誰よりも早く情報が入手することができ、また、職務も高く、そのうち賄賂が行われていることを推測している。この推測を証明できたのが、非物質文化遺産伝承人のサンプル申請表を見つかり、その中には一人の伝承人を例に記載されているが、申請者伝承人と審査員が同一人物であり、かつ、研究員となっているという、禁じられている状態となっている中にも関わらず、審査員の評価意見ではすべて同意という結果となった。つまり、伝承人として認められたという闇を明らかにできた。

 

6. 華県の人々の生活様式の変化によって、「礼饅頭文化」の衰退が原因となっている。一方、政府は面花を保護するために介入したが、その原因で設立した伝承人制度は多くの問題点が存在しており、選出された伝承人は義務履行していない。また、保護にあたっての保護計画は保護されずに面花の商品化を促しつつ、元の姿が保つことができなく、その姿は人々のニーズにおじて、その形態がどんどん華麗に変化しつつあり、やがて「食」としての機能が失われている現状となっている。

【目次】

 

第1章 「面花」とは何か

 第1節 面花とは

 (1)面花の歴史

 (2)面花と饅頭

第2節 祖母の面花

 

2章 華県の面花

 第1節 面花の形態

(1)立ち虎

(2)走り虎

(3)伏せ虎

(4)高饅頭盤

(5)谷巻

 第2節 面花の用途

(1)子供の誕生と満月

(2)完灯

(3)結婚

(4)お年寄り10の壽

(5)葬式と死後

(6)お正月(旧暦春節)

(7)龍頭節

(8)清明節

(9)看忙罢

(10)六月六

(11)棟上げ

 第3節 道具と食材

3章 非物質文化遺産伝承人

第1節 非物質文化遺産伝承人制度

第2節 選出方法と基準

(1)選出方法

(2)選出基準

第3節 伝承人の事例

第4節 選出の闇

4章 商品化される「面花」

 第1節 面花の変容

 第2節 華麗を求める面花

結語

 

文献一覧

 

【謝辞】

 

【本文写真から】

写真1 立ち虎(儀式用)

写真2 谷巻

写真3 高饅頭盤

写真4 面花を作る道具

写真5 面花現在の様式

【謝辞】

 本論文の執筆にあたり、華県にいる多くの方々からご協力いただいた。

 お忙しいなか文献をご紹介してくださった民俗カメラマンの張氏。そして、面花の全般を教えてくださった祖母王忙肖氏。祖母の話を補充してくださった叔母さん谷当婷氏、父劉鉄奇氏、母杜海蓮氏。結婚式に実際参加してくださった張玉龍氏および、その子供である張軍氏。最後に、面花の非物質文化遺産伝承人についての選出の話をしてくださったリン氏。そして、調査に協力してくださった華県下廟町の皆様。これらの方々の協力がなければ、本論文は完成に至ることができなかったはず。

今回の調査をご協力頂いたすべての方々に、心より御礼を申し上げます。本当にありがとうございました。