関西学院大学 現代民俗学 島村恭則研究室

関西学院大学大学院 現代民俗学 島村恭則研究室

融通念仏宗「御回在」の民俗学的研究

出崎和沙

 

【要旨】

 

本研究は、融通念仏宗の伝説・伝承に着目し、それらが語られ、伝播していく場として「御回在」の現場をフィールドに調査を行うことで、受け入れ側の声をふまえて「御回在」の現状を明らかにしたものである。本研究で明らかになった点は、次のとおりである。

 

1.融通念仏宗は庶民にも分かりやすい霊験譚が書かれた『融通念仏縁起』を用いて布教や勧進を行っていた。現在末寺のある大阪・奈良だけでなく他県にも『融通念仏縁起』は伝わっており、その他にも融通念仏宗の伝説には、歌舞伎などでも上演されている『片袖縁起』や『亀鉦縁起』に加え、融通念仏宗のゆかりのある地で良忍上人を偲ぶ伝説や御利益が語られている伝承が数多く伝わっていた。これらの伝説や伝承は、現代においても語り継がれている点から、深く伝播していることが分かった。

 

2.融通念仏宗独自の「御回在」という行事は、本尊が掛け軸だからこそ各檀家の家々を回る事ができ、直接本山のお力をいただくことができるため、より融通念仏宗を近くに感じることができる行事であるといえる。本来であれば、本山の下に末寺があり、その下に檀家という構図が一般的であるが、融通念仏宗においては、本山・末寺・檀家のそれぞれが対等な立場として考えることができる。

 

3.「御回在」で各家々を回るにあたり、檀家の家で休憩をとる時間で世間話をし、寺回向の際にはたくさんの人が参拝され、最後に説法が行われるなど、「御回在」のような巡回の場は語りや交流の場となり、本山と檀家を強く結びつけ、地域に密着した宗派であるといえる。

 

4.「御回在」を受け入れている側の実態は軸として、「本山からわざわざ来て頂けるので有難い」という共通の思いが強くあった。現代において、お祓いをしてもらう機会は減っているが、当世利益的な御祈禱やお祓いが目的という時代があったと言われているように、融通念仏宗は現世利益に強みを持っている宗派であるが、「御回在」において、受け入れ側は当世利益を求め、また宗教側もそれを受け入れ、「御回在」に当世利益の強みを持たせていることが分かった。

 

【目次】

 

序章

第1節 問題の所在

第2節 融通念仏宗

(1)良忍上人と融通念仏宗

(2)融通念仏宗の復興

(3)『融通念佛縁起』

(4)「非文字」文化

 

第1章 御回在

第1節 儀礼としての「御回在」

(1)地域をめぐる御本尊

(2)大和御回在と河内・近郷御回在

(3)お勤め

第2節 御本尊を「迎える」

(1)荘厳と信仰心

(2)供養心

 

第2章 大和御回在の現場

第1節 奈良県奈良市二名の事例

(1)現状

(2)受け入れ側の声

第2節 奈良県生駒市山崎の事例

(1)現状

(2)受け入れ側の声

第3節 奈良県生駒市菜畑の事例

(1)現状

(2)受け入れ側の声

第4節 御帰院

 

結語

文献一覧

謝辞

 

【本文写真から】

 

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写真1 法融寺に掲示されていた御回在の案内

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写真2 御開帳された御本尊(掛け軸)

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写真2 お勤めの最後に行われるお頂戴の様子

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写真3 大念佛寺での御帰院(御回在を終え本山へ帰ってくる)

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写真4 御帰院(平野の市内を歩く様子)

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写真5 御帰院(御本尊が本山へ帰ってくる様子)

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写真6 御帰院法要の様子






 

【謝辞】

本論文の執筆にあたり、多くの方々のご協力をいただきました。お忙しい中、御回在の現地調査の日程を調整いただき、数多くの資料を提供してくださった、大念佛寺教学部長吉井様、教学次長吉田様をはじめとする大念佛寺の職員の皆さま。また、御回在の現場で調査を快く許可していただいた法融寺、安養寺、大融寺、並びに聞き取り調査にご協力いただいた各檀家の皆さま。これらの方々のご協力なしでは、本論文は完成に至りませんでした。今回の調査にご協力いただいたすべての方々に、心よりお礼申し上げます。本当にありがとうございました。