講演「現代と伝承ー『無形文化遺産』の視点からー」
2018年11月25日、宮古島の神と森を考える会、
宮古島市(伊良部島伊良部)
【講演要旨】
本講演では、伊良部島の祭祀の今後のあり方について、伝承論、無形文化遺産論の観点から検討する。
1.祭りや神話、伝説など、これまでいわゆる民俗、民間伝承、伝承などと呼ばれてきたものは、近年、世界的に、「無形文化遺産」(Intangible Cultural Heritage)の名で再概念化されるようになってきている。
2.「無形文化遺産」は、ユネスコ(国連教育科学文化機関)が制定した「無形文化遺産の保護に関する条約」(無形文化遺産条約)において、次のように定義されている。「無形文化遺産とは、慣習、描写、表現、知識及び技術並びにそれらに関連する器具、物品、加工品及び文化的空間であって、社会、集団及び場合によっては個人が自己の文化遺産の一部として認めるものをいう。この無形文化遺産は、世代から世代へと伝承され、社会及び集団が自己の環境、自然との相互作用及び歴史に対応して絶えず再創造し、かつ、当該社会及び集団に同一性及び継続性の認識を与えることにより、文化の多様性及び人類の創造性に対する尊重を助長するものである」。
3.この定義の中で注目されるのは、「無形文化遺産」は、「伝承(transmit)」されるものであると同時に、「絶えず再創造される(constantly recreated)」ものだという理解が示されている点である。
4.この「絶えざる再創造」という考え方は、本日のシンポジウムのテーマである「伊良部島の祭祀の復活をめざして」を考える際、大きなヒントになる。「無形文化遺産」(あるいは、民俗)とは、過去の状態を忠実に守り伝えるという意味での「伝承」のみをさした概念ではない。現地の人びとによる「再創造」自体も、「無形文化遺産」の中に含めて捉えられるものとなっている。
5.この観点からすると、伊良部島の祭祀も、伝承すべきだと考えられる部分は伝承し、同時に、「再創造」させるべきところは、多少、大胆に思われても、「再創造」させることによって、その生命力を維持、活性化することができるだろう。ツカサについてのきまり(選任基準、選出方法、組織構成、禁忌、任期など)、祭祀の回数や内容などは、まさに「伝承と再創造」の観点から、議論すべきテーマである。