関西学院大学 現代民俗学 島村恭則研究室

関西学院大学大学院 現代民俗学 島村恭則研究室

「パンダおばさん」 のフォークロア —高知における誕生と展開—

柏井麻那

 

 

【要旨】

 

本論文は、高知市に暮らす「パンダおばさん」と呼ばれる女性のライフヒストリーや日常に関して、トリックスター性やクィアな存在と彼女との共通点に触れ、彼女が社会に与える影響や役割の重要性を考察したものである。本研究で明らかになった点は、次のとおりである。

 

1.彼女は、「パンダおばさん」というアイデンティティや物語があってこそ生きている人であること。

 

2.トリックスター性やクィア的存在の特徴を持った「パンダおばさん」は、現代の日常的価値体系を逸脱した社会常識の枠に当てはまらず排除されている異質な者たちへ主体性を与え、彼らを支える力がある。

 

3.彼女の存在は、二元論や既存の分類、秩序、常識といった「日常」や「当たり前」に囚われすぎている人々に、自身や既存の概念、社会的秩序を相対化させ、攪乱させるという役割によって、心に余裕がない現世に、日常世界の境界に追いやられた人々に対する寛容性を促す。

 

4.彼女は、秩序と混沌・善と悪の相反するものの境界の往来を我々に見せてくれることや、町興しで硬直した状況に流動性をもたらす役割を果たしている。

 

5.彼女は、現代のマジョリティに該当する者とアウトサイダーである異質な者とを繋ぐ仲介的な役割を果たしている。

 

6.常識や慣習にとらわれ、停滞している現代の社会には、新たな風を巻き起こし、既存の価値秩序を気負いなく破り、攪乱しながら立て直していく「パンダおばさん」のような存在が必要なのではないだろうか。すなわち、トリックスター性やクィア的存在の特徴を持つ存在が、棍棒の一撃を必要とする社会に大きな影響を与える可能性を十分に持っている。

 

【目次】

 

序章 

 第1節 問題の所在

 第2節 トリックスターとクィア

  (1)トリックスターとは

  (2)クィアとは

 

第1章 パンダおばさんのリアル

 第1節 はじめに

 第2節 誕生のきっかけ

 第3節 パンダの被り物

 第4節 衣装の変化

 第5節 手裏剣に込められた裏話

 第6節 町の人との関わり方

 第7節 パンダおばさんの裏の顔

 第8節 パンダおばさんの私生活

 第9節 今後の活動

 

第2章 パンダおばさんへのまなざし

 第1節 名前の由来—「ぶきみ丸」と「パンダおばさん」—

 第2節 都市伝説化したパンダおばさん

 第3節 「奇人」視されたパンダおばさん

 

第3章 考察

 (Ⅰ)両義性

 (Ⅱ)境界を越え、外部とのつながりを持つ

 (Ⅲ)安定や秩序と相反する存在

 (Ⅳ)文化的英雄になる

 

結語

 

文献一覧

 

謝辞

 

【本文写真から】

 

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写真1 パンダおばさん

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写真2 先祖の形見の古文書

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写真3 赤色の忍者の格好をしたパンダおばさん

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写真4 サンタクロースの格好をし、「パンダクロース」として町を歩くパンダおばさん

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写真5 パンダおばさんの自転車の前かご

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写真6 パンダおばさんのサイン入り色紙

 

【謝辞】

 

 本論文の執筆にあたり、多くの方々のご協力をいただいた。

 お忙しいなか、「パンダおばさん」のライフヒストリーや誕生の秘話についてのお話を聞かせて下さったことや、資料や写真の提供をして下さった、「パンダおばさん」こと熊澤直子氏に心より感謝いたします。指導教官の島村恭則教授からは、研究方針やフィールドワークで行き詰った際、多大なるご指導を賜り、最後まで温かく見守っていただき感謝の念に堪えません。これらの方々のご協力なしには、本論文は完成にいたらなかった。今回の調査にご協力いただいたすべての方々に、心よりお礼申し上げます。本当にありがとうございました。