関西学院大学 現代民俗学 島村恭則研究室

関西学院大学大学院 現代民俗学 島村恭則研究室

宇和島の牛鬼・吉田の牛鬼ー出現形態の比較研究ー

 

川畑えりか

 

【要旨】

 

本論文は、愛媛県宇和島市および吉田町をフィールドに、宇和島市で行われる和霊大祭とうわじま牛鬼まつり、また吉田町の吉田秋祭で活躍する牛鬼について実地調査、文献調査を行うことで、各祭りにおける牛鬼の出場形態を比較し、宇和島の牛鬼と吉田の牛鬼の役割の違いを明らかにしたものである。本研究で明らかになった点は、次のとおりである。

 

1.牛鬼は、愛媛県南予地方の神社祭礼に出て暴れたり、神輿渡御の際に悪魔祓いや露祓いの役割を担う練物の一つで、全国的にも珍しいものである。南予の牛鬼を研究対象とした論文は、大本敬久氏の一連の研究などを除くと数少ない。

 

2.牛鬼はその起源においては残忍で狂暴な妖怪であるものの、露祓い、悪魔祓いを行い神輿渡御の役割を担い、祭の中で善神的役割を与えられているという点において、妖怪としての牛鬼と、祭の中で練物としての役割を持つ牛鬼は混同させずに全く別のものとして扱わなければならない。

 

3.頼山陽著『日本外史』によると、豊臣秀吉が加藤清正に朝鮮出兵を命じた文禄の役1592年(文禄元年)に武将加藤清正が韓国の慶尚道・晋州にある、晋州城を攻めるときに、亀甲車を造って城の上から射おろす矢や、投げつける石を防いだという亀甲車の話が、宇和島やその周辺に、牛鬼というものが出来た起源であろうといわれているが信憑性はない

 

4.うわじま牛鬼まつりの牛鬼は、胴体の布の色に規定はなく、個性豊かな形相をしており、現代の神賑行事としての祭りの形、また観光名物としてのうわじま牛鬼まつりを象徴している。祭りの中で、牛鬼は悪魔祓いの役割を果たしていて、家々に頭を突っ込んだりしている。牛鬼が祭り内で、暴れるのはこのアクマを背負っているからであるが、観客はアクマを背負ってくれている牛鬼の姿に歓喜するのではなく、ダイナミックな動きや表現に注目しているのであって、牛鬼をパレードの一環としてのみ見ている。これが、見せる、見せられることを意識した現在の祭礼文化としての形なのかもしれない。

 

5.吉田秋祭のおねりの中での牛鬼は、神輿渡御巡業の露祓いとして場を清める役割を持つ。牛鬼の登場は一体のみで、その風貌は、華美なものではなく吉田の牛鬼といったらこれ、という江戸時代からの牛鬼の形相を守り続けている。

 

6.吉田のおねりでは、趣向を凝らした練車や、一番の見物である鹿の子が存在するため、牛鬼は注目されて見られるものではない。吉田おねりを観るために観光客が訪れるが、牛鬼を観るために、ということではないだろう。吉田おねりは、江戸時代からのお練りの形態を変えず現在まで受け継がれている。そのため、牛鬼の姿が変わることがなければ数が増えることもない。このことからも、吉田秋祭は、歴史性、伝承性の高い祭りであるといえる。

 

7.宇和島の牛鬼は、観光客を呼ぶために、祭りをもっと盛り上げるために、パレードとして楽しんでもらうために牛鬼が様々な様相でパフォーマンスするといったように、神賑行事としての側面を牛鬼が盛り上げ役として担っている。一方で吉田の牛鬼は、伝統や歴史を見物客が感じられる点を重視しているので、牛鬼の姿を変えずに当時のままにしておくことで、より観光客は楽しむことができる。

 

8.神輿渡御、露祓い悪魔祓いといった神事としての祭の中での役割を両方の祭では果たしつつ、神賑行事としての牛鬼の役割(観客への見せ方、見られ方)が二つの祭でそれぞれに異なっているからこそ、練物としての牛鬼が宇和島と吉田において今日まで受け入れられ伝承し続けられていて、吉田秋祭のおねりが形の変わることなく続けられている。

 

9.森田は、「祭の規模が大きくなるに従って、ある場面が神事なのか神賑行事なのか、その判断に迷うことがある。また、多くの祭を比較した時、ある祭で神事的に用いられる祭具が、他の祭では神賑行事の祭具としてもちいられる、といった事例にも出会うことが多い」(森田玲2015:37)と述べている。この事例が宇和島と吉田の祭における牛鬼の出現形態にもいえる。

 

10.うわじま牛鬼まつりが、四国有数の大きな祭りとしてここまで発展したのは、牛鬼の派手な様相やパフォーマンスのためでもあるが、宇和島という町が人口が多く土地も広い比較的発展している都市であるということも関係しているだろう。宇和島においては、祭りの規模が町の規模を表している。

 

【目次】

 

序章 問題の所在

 

第1章 和霊大祭とうわじま牛鬼まつり

 第1節 宇和島市の概要

 第2節 和霊神社

 第3節 和霊大祭

 第4節 うわじま牛鬼まつり

 

第2章 吉田秋祭

 第1節 吉田町の概要

 第2節 吉田秋祭のおねり

 

結語

文献一覧

謝辞

 

【本文写真から】

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写真1 令和4年初詣の際の和霊神社

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写真2 走り込みの様子

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写真3 ガイヤカーニバル

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写真4 親牛鬼パレード

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写真5 吉田の牛鬼

 

【謝辞】

 本論文の執筆にあたり、多くの方々のご協力をいただいた。 

 指導教官の島村恭則教授には、研究の着想から、調査方法、論文執筆まで多くのご指導を賜りました。心から感謝申し上げます。お忙しいなか、牛鬼についての様々な情報を提供してくださった、宇和島市の商工観光課、文化・スポーツ課の皆さま。和霊大祭・うわじま牛鬼まつりに関する様々な情報や写真を提供してくださった森田裕子氏。これらの方々の協力なしには本論文は完成にいたらなかった。今回の調査にご協力いただいたすべての方々に、心よりお礼申し上げます。本当にありがとうございました。