関西学院大学 現代民俗学 島村恭則研究室

関西学院大学大学院 現代民俗学 島村恭則研究室

離島のくらしと郵便局 -長崎県対馬市曽郵便局の事例―

平江 真紀

 

【要旨】

 本研究は、長崎県対馬市の曽郵便局をフィールドに実地調査を行い、郵便行政の末端であり、かつ地域における一つの自律した世界を構築している「特定郵便局」の実態を記述したものである。本研究で明らかになった点は、以下の通りである。

 

1. 創業以来、特定郵便局長は“地域のために”奉仕する志の高い職業であり、初代局長の梅野素直は、地域の利便性向上を願い、曽郵便局の開局に貢献した。そして、「地域に奉仕する」という強い覚悟とその精神は、その後も代々梅野家に引き継がれていくこととなった。

 

2. 2代局長梅野幾磨の時代には、電報配達・電話業務があり、大変な労力を要していた。お客様の電話の内容も、電報で送られてくる情報も郵便局員は「国家公務員の守秘義務」として外部に漏らすことはなく、田舎だからこそできた地域との密接な繋がりにより、大きな信用を得ていた。

 

3. 曽郵便局の担当地域は、漁師の集落が多く、当時はイカ産業がかなり盛んであった。そのため、曽郵便局にはイカの相場の情報が電報で入ったり、その年の漁獲量によって郵便局の目標額が変わったりと、曽郵便局は漁業(特にイカ産業)との関わりが深かった。

 

4.3代局長梅野國志が就任した頃には、郵便局でも機械化が進み、新局舎の建設が必要となった。また、地域住民の利便性の向上のために、梅野國志は県道沿いへの移設に伴う個人での建て替えを行い、現在も使用されている曽郵便局の局舎が完成した。

 

5.曽郵便局で現在の局長を務めている梅野洋平は、最大の親孝行として郵便局長になることを決意し、梅野家が代々地域のために奉仕してきた志を今も引き継いでいる。地域のために行っている仕事は多種多様で、休日にもその活動に励んでおり、「どこからどこまでが仕事なのか」という線引きは大変難しい。梅野洋平の場合は、すべてが曽郵便局長としての活動であり、「地域のために自分が何をできるか」ということを常日頃考えている。

 

6.「地域のために奉仕する」それが、梅野家がこの地域に住み続ける理由であり、“世襲”だからこそ受け継がれてきた歴史と伝統がその精神を示している。そして、これらを謙虚に受け止め、強い決意と覚悟を持つことが、地域の郵便局長としてあるべき姿である。

 

7.地域の中で、郵便局そして郵便局長は “地域に必要とされている” “代わりの利かない”特別な存在である。「誇りのある志の高い人たち」が築いてきたこの仕事は、その強い精神とともに代々と引き継がれ、曽郵便局は今日も「地域のために」あり続けている。

 

【目次】

序章 

 第1節 郵便制度の普及と特定郵便局

 第2節 特定郵便局の特徴

 第3節 曽郵便局の概要

第1章 曽郵便局の誕生

 第1節 曽郵便局のはじまり

 第2節 初代局長および一族の志

第2章 戦中・戦後の曽郵便局

 第1節 当時の業務

  (1)電報・電話業務

  (2)配達業務

 第2節 採用について

 第3節 イカ産業と郵便局

 第4節 集落ごとの特性

第3章 民営化直前の曽郵便局

 第1節  大学郵政コースで学ぶ

第2節  局長になるまで

 第3節 当時の様子

  (1)郵便局と世帯数の推移

  (2)局舎建て替え

  (3)生き残り戦術

  (4)山口修教授との縁

第4章 曽郵便局の現在

 第1節 局長を継いだ経緯

 第2節  田舎の郵便局長とは

  (1)郵便局長としての地域との関わり

  (2)郵便局長としてのやりがい

 第3節  世襲で受け継がれる決意と覚悟

 第4節  田舎の郵便局長としてのこれから

結語

文献一覧

 

【本文写真から】

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写真1 曽郵便局 初代局舎

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写真2 初代局長 梅野素直

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写真3 2代局長 梅野幾磨

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写真4 曽郵便局 現局舎 

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写真5 曽郵便局 現局舎内の様子①

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 写真6 曽郵便局 現局舎内の様子②



【謝辞】

 本論文の執筆にあたり、調査にご協力頂いたすべての方々に心より御礼申し上げます。お忙しい中、曽郵便局について詳しくお話してくださった梅野國志氏、梅野洋平氏、横瀬篤壽氏のご協力なしには、本論文の完成には至りませんでした。

 この度ご協力頂いた皆様、そして曽郵便局の、今後益々のご発展とご活躍をお祈り申し上げます。本当にありがとうございました。