関西学院大学 現代民俗学 島村恭則研究室

関西学院大学大学院 現代民俗学 島村恭則研究室

祭りと「唄の力」―高砂市曽根天満宮秋祭りの事例から―

社会学部 渡邉 晴菜

【要旨】

本研究は、高砂市曽根天満宮秋祭りの一ツ物や竹割りの神事、屋台練りに焦点を置き、地域住民と祭りの関わりや独特な組織、そして祭りと「唄の力」の関係について明らかにしたものである。本研究で明らかになった点は、以下のとおりである。

1.唄には、共に唄う仲間に一体感や結束力をもたらし、それがパフォーマンスにも影響する力がある。無音であれば生み出すことのできないであろう、勢いや雄々しさを生み出し、パフォーマンス行う人々の士気や気分を高める効果がある。また時には、その行事を厳かで神秘的なものとする手助けをし、伝統を守る役割もあると考えられる。そのため、この唄自体だけでなく、「唄の力」が加わって披露されるパフォーマンスが人々を魅了し、祭りを盛り上げることに繋がっていると思われる。

2.この「唄の力」を発揮できる理由の1つに、連中制度と言う信頼関係が築かれた集団が存在することが挙げられる。日常生活から家族同然の関係性が築かれていることと顔見知りが増えていく連中の仕組みによって、町や連中を単位とした仲間意識が生まれていく。そして、この仲間意識があることで「唄の力」も生きてくると考えられる。

3.唄の歌詞や竹割り、連中の関係性など、次の世代へと受け継ぎながらも、時代と共に変化している。伝統を大切にしつつも、変化が加わることでvariationが生まれ、祭りを守り続けることにも繋がっているように思われる。

4.警察やテレビの介入により、規制されることも多くある中で、住民の間で共有されてきた伝統や表現を守りつつも、両者の意見を上手く折衷していくことが今後重要となってくるはずである。

5.この祭りが毎年行われる理由として、住民の協力や理解、そして何よりも愛着があることが挙げられる。仕事や家事など忙しい日々の中で、祭り当日だけでなく練習や集まりが行われている。それを可能にするのは、住民1人1人が1年の大切なイベントとしてこの祭りを認識しているからであると思われる。親分や一ツ物などを依頼した際に、大変であると知っていても、引き受けてくれる人たちと依頼し続ける人たちの存在によって現在まで伝統が守り続けられているのである。また、若者のエネルギーが存分に活用できる場や年齢に関わらず参加できる場を設けていることで、年齢に偏りなく地域住民全員が参加しやすい環境が成り立っているのである。

【目次】
序章 問題と方法−−−−−−−−−−−−−−1

 第1節 問題の所在−−−−−−−−−−−−2

 第2節 曽根天満宮秋祭り−−−−−−−−−2

第1章 連中制度−−−−−−−−−−−−−−7

 第1節 連中とは−−−−−−−−−−−−−8

 第2節 日常生活と連中−−−−−−−−−−10

 第3節 祭りと連中−−−−−−−−−−−−12

第2章 一ツ物神事−−−−−−−−−−−−−17

 第1節 一ツ物とは−−−−−−−−−−−−18

 第2節 東之町の一ツ物−−−−−−−−−−25

第3章 竹割り−−−−−−−−−−−−−−−28

 第1節 竹割りとは−−−−−−−−−−−−29

 第2節 竹割りのパフォーマンス−−−−−−34

第4章 ヤッサ−−−−−−−−−−−−−−−37

 第1節 ヤッサとは−−−−−−−−−−−−38

 第2節 パフォーマンスとライバル意識−−−43

第5章 「唄の力」−−−−−−−−−−−−−46

 第1節 一ツ物神事と口取唄−−−−−−−−47

 第2節 竹割りと地搗唄−−−−−−−−−−49

 第3節 屋台と囃言葉−−−−−−−−−−−53

結語−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−55

文献一覧−−−−−−−−−−−−−−−−−−57

謝辞−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−58

【本文写真から】


写真 1 東之町の一ツ物(14日)


写真 2 北之町の行事頭人(14日)


写真 3 駆け足で宮入りする様子(竹割り)


写真 4 竹割りの最中


写真 5 竹に登る青年(竹割りのパフォーマンス)


写真 6 屋台の差し上げに集まる人だかり


【謝辞】

本論文の執筆にあたり、多くの方々のご協力を頂きました。
お忙しい中、お話を聞かせて下さった、鎌田康司氏、鎌田規宏氏、名嶋伸一氏、紙野哲造氏、ほかインタビューの際にお越し下さった奥様方。貴重なお時間を頂いて質問に答えて下さった、東之町の青年団役員の皆さま。曽根天満宮秋祭りに関する資料を提供して下さった曽根天満宮社務所の皆さま。これらの方々のご協力なしには、本論文は完成には至りませんでした。今回の調査にご協力いただいた全ての方々に、心より御礼申し上げます。本当にありがとうございました。