関西学院大学 現代民俗学 島村恭則研究室

関西学院大学大学院 現代民俗学 島村恭則研究室

京町家を改修する ―京都市西京区樫原の事例から―

船登大輝

 

【要旨】

 本研究は、京都市西京区樫原をフィールドに、京町家の改修について調査を行なうことで、町並み保存に関わる制度や法が実際にどのように生きられているのかについて明らかにしたものである。本研究で明らかになった点は、次のとおりである。

1. 樫原地域は平成13年に西京区で唯一の界わい景観整備地区に指定されている。当時の樫原自治会のメンバーから構成された樫原街並み整備協議会が、樫原の界わい景観整備地区指定に向けて活動を行なっていた。

2. 補助金改修において、住民は京都市によって見積書の提出を求められる。そのため、 補助金改修を行なう住民は、工務店と連携をとり必要な材料の確保や工事計画についての取り決めを行なわなければならない。また、工事完了後は京都市への完了報告書の提出や完了検査の実施を行なう必要があり、手続きが多く、補助金交付までには時間を要する。

3. 界わい景観建造物の補助金は樫原地域の住民が選択できる補助金の中で最も補助率や補助金上限額が高い。しかし、一年に一度しか補助金を申請できないしくみであるため、住民にとって使いづらいものとなっている。そのため、昨年度までの直近3年間の界わい景観建造物の補助金使用実績は0件となっている。

4. 京都市が定めている補助金制度には、原資がある補助金と原資が無い補助金がある。京都を彩る建物や庭園修理事業補助金は、京都市単独の予算からまかなわれており原資が無い。一方で、界わい景観建造物の補助金及び個別指定町家補助金は国資から一部まかなわれているため、原資がある。補助金改修を行なう住民にとって、原資の有無が補助金の使いやすさを大きく左右する。

5. 京町家における改修では、住民は京都市によって景観の意味で元通りに修復する事が求められる。しかし、京町家に住む住民は、歴史的な建造物であるからこそ元々使用されていた古い形式やサイズに合う材料の確保が困難であり、改修に時間を要する。そのため、京都市に求められる元通りの修復がより合理的になって欲しいと感じている住民もいる。

6. 京都市の補助金は、本来であれば景観の意味で元通りに修復するために使用されるべきものであるため、今回の台風21号のような天災に対する修景に利用する事は趣旨から反れていると感じて、補助金使用を避けた住民もいる。

7. 文化財指定を受けている建物が個別指定町家に対する補助金の補助率よりも低いと不満を抱える玉村家の事例のように、京都市の補助金制度そのものに納得がいっていない住民もいる。

 

【目次】 

序章 問題と方法
 はじめに
第1章 補助金のしくみ
第2章 「個別指定町家補助金」による改修
 第1節 中村家
 第2節 改修までの過程
 第3節 改修を振り返って
第3章 保険金による改修
 第1節 小石家
 第2節 改修までの過程
 第3節 改修を振り返って
第4章 「京都を彩る建物や庭園修理事業補助金」による改修
 第1節 玉村家
 第2節    改修までの過程
 第3節    改修を振り返って
第5章 考察
 第1節 補助金改修と保険金改修
 第2節 3つの補助金
 第3節 京町家の改修とは
結語
謝辞
参考文献・参考URL一覧

 

【本文写真から】

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写真1 中村家 門の様子(改修前)

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写真2 中村家 門の様子(改修後)

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写真3 小石家 焼き板の様子(改修前)

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写真4 小石家 焼き板の様子(改修後)

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写真5 玉村家 へい倒壊時の様子

【謝辞】

 本論文の執筆にあたり、調査にご協力いただいた全ての方にこの場をお借りしてお礼申し上げます。ご多忙にもかかわらず、何度も訪問に快く対応いただきました中村行夫氏、小石伊久男氏、玉村隆史氏、京都市役所景観政策課の原田氏、京都市役所まち再生・創造推進室の中川氏のお力添えによって本論文を完成させる事ができました。心より感謝いたします。
 この度ご協力いただいた皆様の、今後のますますのご発展とご活躍をお祈り申し上げます。ありがとうございました。