関西学院大学 現代民俗学 島村恭則研究室

関西学院大学大学院 現代民俗学 島村恭則研究室

祭りの構成と世界観-長崎県五島市下崎山「ヘトマト」の事例-

祭りの構成と世界観-長崎県五島市下崎山「へトマト」の事例-
 多田友美


【要旨】
 本論文では、長崎県五島市下崎山町のヘトマトという祭りを取り上げ、下崎山もフィールドに実地調査や文献調査を行い、その構成とバランスから考察できる下崎山の世界観について明らかにしたものである。本研究で明らかになった点は、次の通りである。

① 綱引きから下崎山を考察すると、大里地区対白浜地区での戦いが1974年に青年団対消防団に変更されたことにより、ヤマ対ハマの人の対立はなくなったといえる。しかし、ヤマとハマの意味、豊作と豊漁の意味はわずかながら残っている。

② 現在のヘトマトのコースから下崎山を考察すると、コースの中で山から海を回り、網羅していくことから、ヤマとハマ、つまり農業と漁業どちらにも関わるバランスが見られる。

③ 現在のヘトマトで行われている時の鉦以降の催し物の順番、祭りの過程から下崎山を考察すると、占いの意味を持つ羽根つき→ハマ(漁業、海)にまつわる意味を持つ玉せせり→占いの意味を持つ綱引き→ヤマ(農業、山)にまつわる意味を持つ大草履奉納巡業という、ヤマとハマどちらにもバランスよく関わる催し物が行われている。

④ 現在のヘトマトで訪れる空間、寺社を考察すると、下崎山地区にある大通寺、白浜神社、山城神社という地域の中にある3つすべての寺社を回ることから、ヘトマトは特定の寺社に限定された祭りではなく、宗教的にもバランスが取れている祭りである。


【目次】
序章
 第1節 問題の所在
 第2節  崎山地区の概況  
 (1)自然環境  
 (2)生業
 (3)寺と神社
第1章 ヘトマトとは何か
 (1)名称
 (2)日程
 (3)儀礼
 (4)山内家
第2章 ヘトマトの過程と空間
 第1節 祭りの過程
 (1)大通寺への参拝
 (2)奉納相撲
 (3)時の鉦
 (4)羽根つき
 (5)玉せせり
 (6)綱引き
 (7)大草履奉納巡業
 第2節 祭りの空間
第3章 ヘトマトの変化
 (1)1918年『崎山村郷土誌』から分かること
 (2)1934年『五島民俗図誌』から分かること
 (3)1954年『ふるさとの歩み崎山』から分かること
 (4)1974年『下崎山町の民俗(ヘトマト公開調査)』
 (5)1985年 山内家にある巻物から分かること
 (6)現在のヘトマト
結び
参考文献
謝辞


【本文写真から】

図1 ヘトマトが行われる空間
*福江市教育委員会『下崎山町の民俗(ヘトマト公開調査)』の下崎山地区家屋配置図をもとに作成



写真1 羽根つきの様子
*出口健太郎氏提供



写真2 玉せせりの玉と山内氏
*山内清一氏提供



写真3 綱引きの様子
*出口健太郎氏提供



写真4 大草履奉納巡業の様子
*出口健太郎氏提供



写真5 山内家に保管されている巻物

 


【謝辞】
 本論文の執筆にあたり、多くの方々のご協力をいただいた。
 ご多忙の中、へトマトについてお話を聞かせて下さり、様々な資料を提供してくださった五島観光歴史資料館の出口健太郎氏と現在ヘトマトの世話役を務める山内清一氏。崎山中学校の取り組みについてお話を聞かせてくださった、崎山中学校校長の村上富憲氏。調査期間中、ヘトマトに詳しい方々の紹介や様々な手助けをしてくださった、伊原幾美氏、伊原俊司氏、伊原聖子氏。
 これらの方々のご協力なしには、本論文は完成にいたらなかった。今回の調査にご 協力いただいた全ての方々に、心よりお礼申し上げます。本当にありがとうございました。