関西学院大学 現代民俗学 島村恭則研究室

関西学院大学大学院 現代民俗学 島村恭則研究室

だんじりへのこだわりと継承への思い―西宮市名塩の事例から―

社会学部 長岡 優奈

【要旨】
 西宮市名塩(木之元町・東之町・山之町・北之町・中之町・南之町・西之町・大西町)をフィールドとした本研究において、名塩がだんじりを8台所有することになった経緯やその存続の意義、時代の移り変わりによる環境変化への対応、8台のだんじりにみられるこだわりや個性が明らかになった。
 例えば、①名塩は江戸時代から紙漉きで栄え、その豊かさにより明治時代初期にだんじりが8台そろえられたこと、②名塩では、公共交通機関の新設で都会が身近になったこと、また田舎社会の敬遠などの主に二点から人口減少、だんじりの担い手不足が発生していること、③名塩の外に住む名塩出身者が秋祭りに参加しやすいように、固定されていた祭礼日が土・日曜に変更されたこと、④名塩の8町において、「自分の町が一番」という誇りから競争意識が生まれ、今日まで8台とも維持され、様々なこだわりが凝らされていること、⑤東之町では約30年前に賑やかな天神囃子を名塩で初めて取り入れるなど、新しいことを率先して挑戦する姿勢がみられること、⑥各町様々なきっかけでだんじりやその備品を新調または改修が行われており、中でも平成26年度に文化庁の補助事業に認められ大改修を果たした中之町のだんじりには多くのこだわりが反映されていること、⑦中之町のだんじりだんじり小屋、はっぴの統一には取材協力者の谷田氏のこだわりが多く反映されており、町内の意思を統一し、次世代へのだんじりの継承への意気込みが表れていること。
 以上の7点が主に挙げられる。
 これらの各だんじりのこだわりや個性、時代の変化への対応などから、新しい事に挑戦していく姿勢と、伝統を重んじる事を重要視する姿勢の、二つの方針に各町を大別できる。後者はだんじりを存続させることよりも、伝統を守る事に特に意義が見出されているように感じられた。一方、新しい事に積極的に挑戦してきた東之町や、それを目標として競争意識を持つ町では、次世代への継承にも積極的な様子であった。加えて、中之町の谷田氏のように、だんじりに熱心に取り組み続け認められる人物が町内にいることで、人手不足の状況においても、将来を見据えた動きが実行され、次世代への継承の意欲が強くみられる。
 また、だんじりやその備品などの新調に関して積極的でない町に対して、様々なこだわりを持って改修や新調に積極的に取り組む町は、そこに費用を掛ける価値を見出しているという事であり、だんじりの存続に積極的であるといえる。
 このように、8台のだんじりにみられるこだわりや個性には、各町間に存在する競争意識などが大きく影響しており、この意識構造は各町のだんじりの維持、名塩だんじりの存続と継承に繋がっているといえる。本研究テーマである名塩だんじりに対する「継承への思い」は、名塩の人びとがだんじりにどのような意義を見出しているかに表れており、それがこだわりという形として反映されているという事が本研究で明らかになった。


【目次】

序章 問題と方法−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−1
 第1節 問題の所在−−−−−−−−−−−−−−−−−−−2
 第2節 調査方法−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−2
第1章 名塩とだんじり−−−−−−−−−−−−−−−−−−4
 第1節 名塩の歴史と現在−−−−−−−−−−−−−−−−5
  (1)歴史−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−5
  (2)現在−−−−−−―−−−−−−−−−−−−−−−5
  (3)集落の構造−−−−−−−−−−−−−−−−−−−6
 第2節 名塩八幡神社と秋祭り−−−−−−−−−−−−−−7
  (1)名塩八幡神社−−−−−−−−−−−−−−−−−−7
  (2)秋祭り−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−10
   (鄯)歴史−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−10
   (鄱)祭礼日−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−10
   (鄴)秋祭り当日−−−−−−−−−−−−−−−−−−11
 第3節 だんじり−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−13
第2章 各町のだんじり−−−−−−−−−−−−−−−−−−20
 第1節 9つの町−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−21
  (1)名塩−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−21
  (2)木之元ー−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−26
  (3)東之町−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−26
  (4)山之町−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−27
  (5)北之町−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−27
  (6)中之町−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−27
  (7)南之町−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−27
  (8)西之町−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−28
  (9)大西町−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−28
  (10)東久保−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−28
 第2節 各町のだんじり−−−−−−−−−−−−−−−−−29
  (1)木之元−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−29
  (2)東之町−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−30
  (3)山之町−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−33
  (4)北之町−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−34
  (5)中之町−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−37
  (6)南之町−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−39
  (7)西之町−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−41
  (8)大西町−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−42
 第3節 組織と運営−−−−−−−−−−−−−−−−−−−43
  (1)青年団−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−43
  (2)名塩青年団本部−−−−−−−−−−−−−−−−−44
  (3)町内会−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−44
  (4)名塩自治会−−−−−−−−−−−−−−−−−−−45
  (5)西宮市名塩財産区−−−−−−−−−−−−−−−−45
  (6)一般財団法人名塩会−−−−−−−−−−−−−−−46
  (7)外部の参加者−−−−−−−−−−−−−−−−−−46
第3章 だんじりへのこだわり−−−−−−−−−−−−−−−47
 第1節 地車−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−48
 第2節 掛け声と囃子−−−−−−−−−−−−−−−−−−67
  (1)掛け声−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−67
  (2)囃子−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−67
 第3節 だんじり小屋−−−−−−−−−−−−−−−−−−68
 第4節 宮入り・宮出し、蔵出し・蔵入れ−−−−−−−−−70
 第5節 衣装−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−71
 第6節 見せるための工夫−−−−−−−−−−−−−−−−80
 第7節 各町間の関係−−−−−−−−−−−−−−−−−−82
第4章 「文化遺産を活かした地域活性化事業」とだんじり−−84
 第1節 「文化遺産を活かした地域活性化事業」−−−−−−85
 第2節 中之町のだんじり−−−−−−−−−−−−−−−−86
  (1)中之町のだんじり−−−−−−−−−−−−−−−−87
  (2)谷田佳央氏のリーダーシップ−−−−−−−−−−−89
結語−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−91
文献一覧−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−93
謝辞−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−94


【本文写真から】

写真1 名塩全体図(Googleマップ



写真2 子供がたくさん乗るだんじり(東之町)



写真3 急坂を上る北之町のだんじり



写真4 提灯側面の「北」のデザイン(北之町)



写真5 統一された木之元町のはっぴ



写真6 まいまいで方向転換する様子(中之町)


【謝辞】
 本論文の執筆にあたり、たくさんの方々にご協力いただきました。9名の方々をご紹介くださり、秋祭りについて詳しい知識をくださった八木米太朗様、そしてお忙しい中時間を空け、各町の歴史やだんじりについてお話してくださった片岡新一様、覺前和也様、木戸和人様、谷田佳央様、木本義博様、藪八洲男様、山之町の3名の皆様。そして秋祭りでお世話になった皆様。また取材ではお話だけでなく、だんじりを実際に見せていただいたり、町についての資料などを提供いただきました。
 皆様のご協力なしには本論文の完成には至りませんでした。調査にご協力いただいたすべての方々に心より感謝申し上げます。本当にありがとうございました。