関西学院大学 現代民俗学 島村恭則研究室

関西学院大学大学院 現代民俗学 島村恭則研究室

浜松まつりの民俗誌−曳馬町三浦・加藤家の事例から−

高橋すみれ

 

【要旨】

 本研究は、静岡県浜松市で毎年5月に行われる浜松まつりについて、参加町の一つである曳馬町三浦と、三浦に所属する1家族に焦点を当てて調査を行い、現場目線での浜松まつりを明らかにしたものである。本研究で明らかになった点は以下の通りである。

 

1.曳馬町三浦は静岡県浜松市中区にある三浦公民館を会所とし、1987年より浜松まつりに「三浦組」として参加している。御殿屋台の所有は無く、凧揚げのみの参加である。

2.通常は初子の名前を入れて初凧を空へ揚げるが、同様に子ども会の凧に小学校6年生になった子どもの名前を入れて揚げる、など曳馬町三浦独自と思われる習慣が見られる。

3.浜松まつりの正装は鯉口シャツ、腹掛、股引、地下足袋、町内法被、である。そのような服装に、揃いの手拭いでアレンジを加えるなど、参加者それぞれの工夫とこだわりが見られる。

4.浜松まつりはただ楽しいだけのまつりではない。準備、運営のために膨大な労力や資金が必要となる。資金集め、凧の準備、練りの準備、臨機応変な対応など、特に凧揚会役員の大人達は常に先のことを考えて行動している。

5.三浦町の加藤家にお話を伺った。浜松まつりが楽しい思い出でいっぱいの子供たちと、大変な記憶も多い大人達。加藤家母は大変な経験をしながらも、今ではまつりが大好きになったという。浜松まつりに参加している、同じ町の地域住民は大変なことを共に乗り換えた仲間でもある。

6.浜松まつりは家族の仲を深め、 地域の絆を深める大切なイベントである。そういった面から、まつりは参加者たちにとって1年に1度、無くてはならない年中行事になっている。大切な家族との思い出であり、情熱を持って一つのことを成し遂げる経験でもある。

7.浜松まつりは、準備から携わる大人達、全力で楽しむ子ども達、それぞれ、全員が主役のまつりである。

 

【目次】

序章 問題の所在

第1章 浜松まつり

 第1節 歴史

 第2節 現状

第2章 曳馬町三浦のまつり

 第1節 曳馬町三浦

 第2節 凧揚会

  (1)役員タスキ

  (2)費用

  (3)収入

  (4)初子人数

 第3節 子供会

 第4節 時間の流れ

  (1)ラッパ練習

  (2)会所開き

  (3)初凧納め

  (4)前夜祭

  (5)初凧・祝い凧の御祈祷

  (6)凧揚げ

  (7)町内練り

  (8)片付け

  (9)反省会

  (10)凧揚げの練習

 第5節 服装

  (1)まつりの服装

  (2)服装アレンジ

  (3)持ち物

  (4)手拭い

第3章 加藤家のまつり

 第1節 加藤家

  (1)まつりの好きなところ

  (2)大変なこと

  (3)まつりへの印象の変化

  (4)大変だったエピソード

  (5)参加してみて驚いたこと

  (6)浜松まつりはどんな存在か

 第2節 長男の初子祝い

 第3節 父の組長経験

結語

文献一覧

 

【本文写真から】

※写真は調査対象の加藤家より提供いただいたものである。

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写真1 凧に貼る扇に自分の名前を書く小学6年生

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写真2 加藤家長男の初凧と加藤家の皆様

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写真3 曳馬町三浦の会所開きにて、舞台上に座る初家の加藤家

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写真4 初子祝いの接待にて、加藤家と酒樽を囲む人々

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写真5 初凧から切り取られた、家紋と初子の名前部分。加藤家に飾られている。

写真5 初凧から切り取られた、家紋と初子の名前部分。加藤家に飾られている。

 

【謝辞】

 本論文の執筆にあたり、加藤家の皆様にはお忙しい中多大なご協力をいただいた。写真のご提供やお話を聞かせていただいた加藤家の皆様、特に加藤元一氏、加藤博絵氏のご協力がなければ本論文は完成することはできなかった。

 心よりお礼申し上げます。本当にありがとうございました。