関西学院大学 現代民俗学 島村恭則研究室

関西学院大学大学院 現代民俗学 島村恭則研究室

饅頭からラーメンへ ―播州・西脇のラーメン史―

【要旨】
 本研究は、兵庫県西脇市多可郡に存在する「播州ラーメン」について、その発祥やそれを取り巻く環境、および現状について焦点を当てて現地調査を行い、その内容を明らかにしたものである。本研究で明らかになった点は、以下のとおりである。
 1.西脇市とその周辺は播州織が発展し、そのおかげで繁栄した地域であった。その発展途中で多くの人びと、特に女性が多く流入し、そのことにその土地の食文化も影響を受けた。その結果、生まれたのが甘い味付けの醤油ラーメンであり、それがのちに「播州ラーメン」となった。
 2.「播州ラーメン」の起源について様々な説が唱えられており、明確な証拠もないため、どれが正しいものかは不明である。しかし、その中で有力とされる「女工の口に合うように作られた」という説は今も実話として語られている、現在も存在するラーメン店の始まりについての語りが由来であった。具体的には、女性が西脇に多く流入したことで甘いものが売れるようになり、饅頭屋が繁盛したことから、ラーメンも甘い味付けになっていったというものであった。
 3.そのほかに、ラーメンが甘い味付けになった理由としては、女工に限らず、工員に向けて夜食を作る際に甘い味付けである方が良いという考えから甘くなったという説もあった。しかし、これはあまり知られておらず、西脇市やそれ以外でも同様の話は聞き取れなかった。
 4.「播州ラーメン」はテレビの取材によって発見され、名づけられた。それまでは西脇市やその周辺ではその味付けが一般的であり、特別なものという認識はなかった。西脇市はテレビからの取材をきっかけにブランド化を始めた。その取り組みのため、「播州ラーメン」を立ち上げ、現在もブランド化を進めている。
 5.「播州ラーメン」ブランド化の取り組みの中には認定店を定めるというものがある。認定店は、「播州ラーメン」部会から、「『播州ラーメン』認定店」と書かれたのぼりやプレートの掲示、持ち帰り用パックの販売、「播州ラーメン」として売り出すことが認められた店の事である。この取り組みはブランド化の柱となっており、この認定店を増やすため、さらに後継者不足も解消するために、後継者育成事業も展開している。ほかには、イベントへの出店や企業とのコラボレーション商品の開発などにも取り組んでいる。
 6.市や組合、部会によるブランド化に対して、認定店にはその取り組みに積極的ではないところや反対意見を持つところもある。その理由は、その店の客を大事にする姿勢や受け継いでいる味を簡単に他人に教えられないといった職人気質な部分が原因であった。そのため、市や組合、部会と現場のラーメン店との間には温度差があり、それがブランド確立の妨げになっていることがうかがえた。


【目次】
序章 はじめに―――――――――――――――――――――――――――――――1

第1章 饅頭からラーメンへ―――――――――――――――――――――――――5
 第1節 西脇と紡績工場--------------------------------------------------6
 第2節 「畑ぽん饅頭屋」から「畑やんラーメン」へ------------------------8

第2章 西脇のラーメン店――――――――――――――――――――――――――10
 第1節 畑やんラーメン--------------------------------------------------11
 第2節 西脇大橋ラーメン------------------------------------------------13
 第3節 内橋ラーメン----------------------------------------------------16
 第4節 紫川ラーメン----------------------------------------------------18
 第5節 大橋中華そば----------------------------------------------------20

第3章 「播州ラーメン」の発見―――――――――――――――――――――――23
 第1節 テレビ番組への登場----------------------------------------------24
 第2節 西脇市によるブランド化------------------------------------------24
 第3節 ラーメン店の日常------------------------------------------------30

結語―――――――――――――――――――――――――――――――――――32

謝辞―――――――――――――――――――――――――――――――――――35

文献一覧―――――――――――――――――――――――――――――――――36


【本文写真から】

写真1 「播州ラーメン」(西脇大橋ラーメン)



写真2 「播州ラーメン」(内橋ラーメン)



写真3 「播州ラーメン」認定店のみ使用できるのぼり



写真4 「播州ラーメン」認定店のみ掲示できるプレート



写真5 「播州ラーメン」部会と大手コンビニエンスストアと共同開発商品


【謝辞】
 本調査には多くの方にご協力いただきました。畑やんラーメン店長であり「播州ラーメン」部会長の畑純司さん、西脇大橋ラーメン店長の大石達也さん、内橋ラーメンの池田香幸さん、紫川ラーメンの進藤寿美さん、大橋中華そばの大橋晴美さん、白石節子さん、そして「播州ラーメン」部会の皆さま、ご協力いただき、誠にありがとうございました。皆様のご厚意がなければ本調査を成し遂げることはできませんでした。この場を借りて、改めて、心より御礼申し上げます。