関西学院大学 現代民俗学 島村恭則研究室

関西学院大学大学院 現代民俗学 島村恭則研究室

廉売市場の民俗誌―函館「中島廉売」の事例―

廉売市場の民俗誌―函館「中島廉売」の事例―

梶 鮎美


【要旨】

 本論文は函館市中島町に位置する中島廉売市場をフィールドに実地調査を行うことで、中島廉売のこれまでのあゆみ、にぎわい、現在抱えている問題、店舗や露店で商売をする商人の生き方などを解明したものである。本研究で明らかになった点は次の通りである。

1.中島廉売の誕生は1934(昭和9)年に函館に大きな被害をもたらした函館大火の発生がきっかけであった。その大火の際、中島町はわずかな被害だけで済んだため、函館市内各地から露天商が集まり、商業集積が形成されたのである。

2.中島廉売の「廉売」とは「安く商品を売る」という意味であるが、もともと函館朝市で売れ残ったものを安く売っていたという歴史から来ているものであった。また、現在も函館朝市と中島廉売の両方で出店している店舗があるなど、函館朝市と中島廉売の関係は深い。

3.中島廉売は大通り「中島町商店街振興組合」、仲通り「仲通り会」、露店「中島町親睦会」の3つの組織に分かれて店舗を出したり、イベントを行ったりしている。また、2006(平成17)年まではマルイチ市場があり、1つの組織となっていた。現在は3つの組織が協力し合って中島廉売を作り上げているが、これらの組織を1本化させようとする動きが見られる。

4.函館は北洋漁業によって栄えた街であると言え、中島廉売もその影響を受けてにぎわいをみせていた。200海里問題から北洋漁業が衰退した後の函館は、北洋漁業の街から観光の街へと変化していったという。

5.中島廉売の一番の特徴と言えるのが露店である。最盛期には100店舗以上の露店が大通りに並んでいたこともあったが、現在は9店舗の露店が商売を行っている。露店の数をまた増やそうという計画がなされており、道路の整備や露店出店条例の簡素化が進められている。

6.中島廉売内で店舗の形態の移動が多くある。露店から店舗へ、マルイチ市場から店舗へ、住宅の軒先を店舗へなど多様である。これらは時代の変化や客のニーズに合わせて形態を変化させながら営業してきた結果である。

7.中島廉売では2014(平成26)年に5階建ての「新中島れんばいふれあいセンター(仮)」を建設し、この施設の完成がひとつのターニングポイントであるとしている。この施設にはコミュニケーションを取ったり、休憩したりするスペースやトイレ、カフェスペースなどが入る予定である。中島廉売の3つの組織とNPO法人日本障害者・高齢者生活支援機構が協力し合いながら、新しい中島廉売を作り上げようとしている。


【目次】

序章 問題の所在――――――――――――――――――――――――――3

第1章 中島廉売の形成――――――――――――――――――――――――─―9

 第1節 函館大火‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥9

 第2節 函館朝市と中島廉売‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥11

第2章 4つの組織―――――――――――――――――――─―19

 第1節 大通り‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥19

 第2節 仲通り‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥28

 第3節 露店‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥31

 第4節 マルイチ市場‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥36

 第5節 一本化への動き‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥39

第3章 中島廉売のにぎわい―――――――――――――――――――─―41

 第1節 函館と北洋漁業‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥41

 第2節 北洋漁業と中島廉売‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥45

 第3節 「佐々木青果店」佐々木修二氏のライフヒストリー‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥47

 第4節 「川崎青果店」川崎正博氏のライフヒストリー‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥50

第4章 露店の世界―――――――――――――――――――─―53

 第1節 中島廉売と露店‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥53

 第2節 露店と店舗‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥58

 第3節 「岩谷青果店」岩谷時弘氏のライフヒストリー‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥63

 第4節 「蝦夷屋」二本柳秀樹氏のライフヒストリー‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥66


結語―――――――――――――――――――――――─――――――――――71

文献一覧―――――――――――――――――――─――――――――――――73



【本文写真から】






















大通り北側の様子






















仲通りの様子






















露店の様子






















整備されている露店出店スペース


【謝辞】

 本論文の作成にあたり、多くの方々のご協力をいただきました。
 お忙しい中、ライフヒストリーを聞かせて下さった、「川崎青果店」川崎正博氏、「岩谷青果店」岩谷時弘氏。中島廉売と北洋漁業のつながりについて詳しく聞かせて下さった「佐々木青果店」佐々木修二氏。中島廉売の歴史や変遷、今後についてなど幅広く丁寧に教えて下さった二本柳秀樹氏。中島廉売の現在の状況を教えて下さったり、中島廉売関係者の方々を紹介して下さったりした能登正勝氏。また、その他中島廉売関係者の皆さん。皆さんのご協力なくしては、本論文は完成に至りませんでした。
 今回の調査にご協力いただいたすべての方々に、心よりお礼申し上げます。本当にありがとうございました。