だんじりの街―岸和田祭礼民俗誌―
並川 梓
【要旨】
本研究は大阪府岸和田市で行われている岸和田だんじり祭りについて実地調査を行うことにより、岸和田だんじり祭りと共に生きる人々の生き方や、それにより培ってきた独自の文化等を明らかにしたものである。本研究で明らかになった点は、次のとおりである。
1.岸和田市では、旧城下町の町域において、江戸時代よりだんじり祭りが発展してきた。城下町の街の特徴は、現在も祭りのあり方に反映されている。
2.岸和田だんじり祭りは、一年に一度だが、一年を通して祭りのための寄合や、各祭礼団体での活動等が行われる。岸和田だんじり祭りに参加する人々の中には、仕事よりもだんじり優先という考え方を持っていて、だんじりのために仕事を辞めるという人も実在する。
3.岸和田市で生まれ育つ子どもたちは、幼い頃からだんじりと共に育つ。だんじりの鳴り物や、ミニ地車が子どもたちの遊び道具である。そんな彼らは、生まれてから死ぬまで、自町の地車のみを愛し続ける。
4.昔は町民のみで曳いていた各町の地車も、町民の減少で曳き手が不足する時代となった。そのため、現在は町民以外も曳けるようになっている。旧市(初期市制施行時の岸和田市エリア)の祭りは人気が高いため、他地区から多く曳きに来る。そういったことなどを踏まえ、時代の流れで祭りに対する意識も若い人と年配の人々との間でギャップが生じ始めている。
5.岸和田だんじり祭りは年に二度(9月祭礼、10月祭礼)開催されるが、一般に「岸和田だんじり祭り」というと、9月に開催される旧市の祭りのことを指す。行政上の都合で、現在は岸和田だんじり祭り○○地区と表記されるが、元々の岸和田だんじり祭りは岸和田旧市地区で行われていた祭りのことなのである。
6.歴史と伝統ある岸和田だんじり祭り(旧市の祭り)には、外部から新規参入をすることは難しい。しかし、平成14年に別所町が、平成19年に南上町が参入を果たした。参入の際には、協議が難航し、参入決定後から現在も、新参扱いの二町に対する風当たりは厳しい。新市地区や貝塚や堺市など岸和田周辺泉州一帯では、現在もだんじりを新しく始める町が増えている。
7.岸和田市には、岸和田だんじり祭りがあるからこそ、その地で生まれ、発展させてきた独自の文化や習慣が存在している。その例として、大工方同好会、岸カジ/ミニチャ、彫物と若者、食文化を紹介した。
8.また、泉州地区での若者の流行は、岸和田旧市発信で広まっていくパターンが多い。それは、泉州地区の若者にだんじり愛好者が多く存在し、だんじり愛好者の中ではだんじりのメジャーな地域として岸和田旧市があるという認識があるためではないかと考えられる。
【目次】
序章―――――――――――――――――――――――――――――――――――― 1
第1節 問題の所在・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1
第2節 岸和田市の概況・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1
第1章 だんじりの世界――――――――――――――――――――――――――― 5
第1節 岸和田だんじり祭りの歴史と現在・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 5
第2節 市民が語る岸和田だんじり祭り・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 10
(1)森 高一氏の語り・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 10
(2)反甫 勝氏の語り・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 12
第2章 岸和田だんじり祭りの内と外――――――――――――――――――――― 33
第1節 市町村合併と岸和田だんじり祭り・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 33
第2節 新規参加の町・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 35
(1)別所町の事例・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 35
(2)南上町の事例・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 36
第3章 だんじりと岸和田カルチャー――――――――――――――――――――― 42
第1節 大工方同好会・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 42
第2節 岸カジ/ミニチャ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 43
(1)岸カジ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 43
(2)ミニチャ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 44
第3節 彫物と若者・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 45
第4節 食文化・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 46
結語――――――――――――――――――――――――――――――――――― 49
文献・URL一覧―――――――――――――――――――――――――――――― 51
【本文写真から】
写真1 堺町地車小屋
写真2 堺町地車小屋にて子どもたちが鳴り物で遊んでいる様子
写真3 堺町青年団の鳴り物練習の様子
写真5 中北町だんじり
【謝辞】
本論文を書くにあたり、以下の方々にご協力いただきました。森高一氏、反甫勝氏、櫻井宏樹氏、堺町青年団のみなさん、自転車けんけん店主様、藤田美典氏、田中隆治氏、林愛咲氏。お忙しい中、本論文執筆のために情報提供を頂いたり、御自身のだんじり談をお話しいただき、論文完成の糧とさせていただきました。心より御礼申し上げるとともに、ここに謝辞と代えさせていただきます。本当にありがとうございました。