関西学院大学 現代民俗学 島村恭則研究室

関西学院大学大学院 現代民俗学 島村恭則研究室

瀬戸内海の内航海運−新居浜・青野海運の事例−

瀬戸内海の内航海運−新居浜・青野海運の事例−
川本 彩

【要旨】本研究は、瀬戸内海の内航海運について、新居浜市に本社を置く青野海運を事例に取り上げて実地調査を行うことで、海運業者と地域社会史とのかかわり、および内航海運のしごとの現場について明らかにしたものである。本研究の成果を箇条書きにしてまとめると、つぎのようになる。

1.青野海運の前身である青野回漕店は、別子銅山開坑後、およそ200年後に創業され、別子銅山を経営する住友の御用達として発展していった。
2.別子銅山での採掘量が増えるにつれ、また技術が発展していくにつれ、採れる銅を製錬する過程に排出されるガスによって周辺の農作物に被害を与える煙害が引き起こされていることが表面化してきた。
3.住友はその煙害を防除するために、その排出されるガスを肥料に作りかえる技術をみつけだし、肥料製造所を設立した。
4.その肥料製造所の製品を運送するためタンク船の開発に力を入れたのが青野海運だった。このタンク船の運航に関しては、非常に危険な試みであったために二の足を踏む業者が大変多かった。
5.そして青野海運がタンク船の運送を成功させた。
6.その後も住友企業とともに成長してきた青野海運であるが、最近では倉庫業、トラック運送業等、多岐に渡って事業を展開し、総合物流業者としての地位確立を目指している。
7.船を実際に運航する際のリアリティ。

【目次】
序章 調査対象と概況―――――――――――――――――――――――――――1
 はじめに................................1
第1節  内航海運............................1
第2節  瀬戸内海と内航海運....................4
第3節  新居浜市・青野海運....................6
第1章  青野回漕店の創業―――――――――――――――――――――――10
第1節 別子銅山の稼動.........................10
第2節 創業者・青野重松........................15
(1) 初代・重松 16
(2) 2代目・市太郎 16
第2章  青野海運と住友――――――――――――――――――――――――19
第1節 煙害被害............................19
(1) 広瀬宰平 19
(2) 伊庭貞剛 21
(3) 四阪島移転 22
第2節 肥料製造所の設立........................23
第3節 製造所の製品輸送........................24
第4節 硫酸の輸送増加.........................26
第5節 タンク船運送への展開......................26
(1) 二度の失敗 26
(2) タンク船輸送の成功 29
第3章  内航海運の実態――――――――――――――――――――――――32
第1節 航路と積荷...........................32
第2節 働く人々............................33

第4章  陸上事業への展開―――――――――――――――――――――――38
第1節 倉庫業.............................38
第2節 トラック業...........................40

まとめ――――――――――――――――――――――――――――――――――44
あとがき―――――――――――――――――――――――――――――――――76

文献一覧―――――――――――――――――――――――――――――――――78
【本文写真から】


資料1:新居浜市の略図。


写真1:乗せていただいた第一光輝丸。

写真2:青野海運株式会社本社ビル外観。
 



【謝辞】
本論文を完成させるに当たって青野海運株式会社の船舶管理部部長 田村伊佐雄氏、総務部長 岸徹氏、船舶管理部工務課課長 汐口弘行氏、第一光輝丸船長 吉野精志氏 には突然、無理なお願いをしたにも関わらず、たくさんのためになる資料を提供していただくとともに、有益なお話を、忙しいお時間を割いて聴かせていただき、また実際に船舶の見学もさせていただき、たくさんご助言もいただいた。ここに深謝の意を表する。
また、新居浜市文章教室主宰 越智大円先生にも卒業論文テーマを決めるにあたり有益なご助言をいただいた。ここに深謝の意を表する。