関西学院大学 現代民俗学 島村恭則研究室

関西学院大学大学院 現代民俗学 島村恭則研究室

What is Folklore?

 島村ゼミでは、2016年度に3回生になる学生たちが、春休みの課題として、北米の大学のウエブサイトに掲載されているフォークロアコースやフォークロアについての解説を読解し、その内容を日本語でまとめました。アメリ民俗学について紹介した日本語の文献は少ないので、参考まで、ここに一部紹介します。

(1) What is Folklore?

長岡優奈

“Folklore”という言葉は、1846年にイギリス人学者ウィリアム・トムズによって作られた。古い慣習や伝統についての学問として、それまであった名称“antiquarian knowledge”や“béaloideas”(アイルランド語)は古すぎるとして、彼は新しく名付けたのである。
 では、このフォークロアとはいったい何なのだろうか。まず“folklore”という語は“folk”と“lore”の複合語で、“folk”とは「少なくとも何か一つでも共有している物がある人々のグループ」(Alan Dundes)である。ここでの“グループ”についてもっと詳しく述べると、年齢、性別、民族、趣味、地域、職業、宗教、同じ民族的伝統、言語というファクターを二人またはそれ以上の人々で共有している集団のことを指す。例えば、同じ教会に所属または同じ信仰を共有している人々によって形成されたフォークグループや、土地のつながりにおいてアイデンティティを共有している地域フォークグループなどが挙げられる。フォークロアとはこれらのグループが維持し伝えてきた“生き方way of life”における“文化的流儀cultural way”のことなのである。簡単にそれら“文化的流儀”の例を挙げると、物語や歌、習慣、伝統、信仰、食文化などがそうだと言えるだろう。
 また、アイルランドフォークロア研究者Kevin Danaherは、フォークロアについて、「人々の日常的な言葉の言い回しと行動」と簡潔に説明している。フォークロアについてこのように説明できるのは、文化的流儀である歌や習慣など、これらの表現は主に、人の話し方等の真似による口頭により、または行動から学ばれ継承されていくものであるからだと言えるのではないだろうか。そういうことから、フォークロアは一般的に、制度的に習得・維持されているわけではない、といえる。
 フォークロアには「フォークアート」とも呼べるものがたくさんある。グループの生き方の共有において、維持され、伝えられてきた伝統的、文化的表現のことを指す。それらはグループにおける美や、グループの起源といったアイデンティティ、価値観を表現する。そしてまた、そのアートを作ったフォークアーティストや、そのコミュニティがどのように彼ら自身を見ているのか、ということもフォークアートから伝わってくるのだという。例えば、プエルトリコの「クワトロ」という10本弦のギターのような弦楽器、水夫が魚の入っている重い網を引き揚げる時に歌うリズミカルな舟唄(chantey)、ウクライナの「ピサンキ」というろうけつ染めのイースターエッグなどがフォークアートとして挙げられる。
 フォークアーティストがアートを作ることの意義、目的は、次の6項目である。①現存している伝統を維持すること。②永続的外観とアート自体の有用性が成立すること。③グループメンバーに使用してもらい、また外部によるそのグループの伝統のイメージを維持すること。④グループが共有してきた経験の記憶を再現すること。⑤民衆にとって、特別な宗教的意義を持たせ、宗教儀礼に用いてもらうこと。⑥フォークグループが共有してきた表現を強く敬愛していることを象徴すること、である。世代から世代へと継承されるフォークアートは生きた文化的伝統であり、過去と現在を繋ぐ役割を持つ。そしてこれらは決して固定的なものではなく、その伝統的なクオリティーを維持する一方で、新たな環境に順応するために変化していくものなのである。また、アーティストの独自の表現が加わって変化が与えられることもある。
 さて、フォークロアについての説明は他にもある。“Living Folklore”(2005)の中では、「フォークロアは、我々が常に抱えているコンプレックスや、自分に疑問を持ち挑戦していかなければならない社会への困惑の中で、自分のアイデンティティを形成し表現するための手助けになっている」と述べられている。また、「自分の生活に当てはめることの出来るものとしての社会人類学的対象」や、「文字にはされない人々の学び」など様々な説明がある。 
 かつては、一般的に「フォークロア」の”folk”は、“農民や田舎者のグループ、または昔の人々”と認識されていたが、現在では、Alan Dundesによる冒頭で紹介した定義のように、”folk”は「少なくとも何か一つでも共有している物がある人々のグループ」であり、現代の都会の住民たちもまたフォークロアを持ち、失われたというよりもむしろ絶えず生み出され、新たな環境に適合するように作り直されているものがフォークロアである。
 ここまで、フォークロアについて、フォークアートも含めたくさん述べてきたが、そこで、どうしてフォークロアにはこのようにたくさんの説明・定義があるのだろうか、と疑問が浮かぶのではないだろうか。その理由は、フォークロアが我々の生活の中で非常にありふれたものだからだと言える。全ての人はそれぞれ違ったフォークロアを経験し生きているため、フォークロアには多様性と流動性(変異性)が生まれる。そのため、固定された定義の中に「フォークロア」を閉じ込めるのは難しいのである。そして、フォークロア研究が進むほどに、定義が出来ていく。
 フォークロアの大枠が分かってきたところで、フォークロア学者が考えているカテゴリー・分類について述べようと思う。一番大まかでわかりやすく思えるのは、次の3分類に分けるパターンであると私は考える。①Oral Lore:口頭ロア(歌、子守歌、民話、ことわざ、神話など)、②Material Lore:物質ロア(宝石、キルト、民族衣装、楽器など)、
③Behavioral / Cogitative:行動・信仰のロア(慣習的行動・宗教など)。
 そして、この3分類をより厳密に分類したのが、イリノイ大学図書館のサイトにある6分類であると考える。①Music(民謡など)、②Narrative(伝説、都市伝説、おとぎばなし、民話、個人的経験の話など)、③Verbal art(ジョーク、ことわざなど)、④Material Culture(フォークアート、建築、編み物など)、⑤Foodways(伝統料理、食べ物と文化との関連についてなど)、⑥Belief and religion(宗教、儀式、神話など)。
 また、所属するグループによって分類することも可能である。Children Lore(子供の遊びなど)/ Family Lore(家族の起源や歴史、家独自のレシピなど)/ Community Lore(地域における祝日の祝い方、料理、歌、衣装など)。
 この他、職業・労働と結びついたフォークロアという分類もある。フォークアートの具体例でも述べた、水夫が魚がの入っている重い網を引き揚げる時に歌うリズミカルな舟唄(chantey)がその例である。分類の仕方にパターンがたくさんあるのは、定義がたくさんあるからではないかと考えられる。
 では、フォークロアを調査するためには、どのようなことをすればよいのか、また、調査にはどのような手法が使われているのだろうか。まずはじめに、自分の学校や近所の周囲を歩くこと、であるという。自分がフォークロア用の特別なメガネをかけている、と想像して歩き、もしフォークロアだと思えるものを見たり聞いたりしたら記録する。また、地図作りをするのが有用であるという。調査として歩きに出かける時に地図を持って、自分が見たフォークロアを分類が分かるように地図に書き留めると、より理解が深められるのである。
次に、自分が地域や家族のフォークロアを調査をしていることを相手に伝えて、家族や友人、教師、クラスメートと話すこと。どこで生まれ育ったか、子供の頃の遊びやその詳細、地域独自の伝統的なイベントやその起源などを質問してデータを集めていくのである。またこの手法はインタビュー形式であると言える。こんにちでは、フォークロア研究者だけではなく、文化人類学者、作家、芸術家、歴史家もこのインタビュー形式の調査を行っている。
また、目的を設定して現地に赴いて調査をするフィールドワーク、家族の物語を集めること、地域において祝祭やイベントを発見する事も調査手法の一つである。また、フォークロアグループの中に入っていき、同じコンテクストの中で過ごし観察する「参与観察」も必要とされる手法の一つである。
 結論としてフォークロアは、すべての人にとってありふれたもので、どんな歴史や遺産にも劣らない価値があり、我々の未来のための遺産として記録・保存されなければならないのである。



(2) What is Folklore? 

爲数美智

1846年にWilliam Thomsが“Folklore”という言葉を生み出し、現在に至るまで、フォークロア研究は発展しながら、様々な人びとによって定義づけられてきた。しかし、多様で流動的な“Folklore”を限定することは極めて困難である。そもそも“Folklore”の“Folk”とは、「人びと」のことであり、つまりすべての人が何らかの形で、「人びと」に属しているのである。これをより具体的にいえば、すべての人は何らかの“Folk Group”に属しているということになる。
民俗学者のひとりである、Alan Dundesによると、この“Folk Group”は、「1つの共通の事柄を持っているふたり以上で構成されたグループのこと」を指す。それは、同じ宗教を信仰する人々同士で出来上がることもある。
このように、“Folklore”は、自分ひとりだけではなく、他者と“共有”することが前提としてあると考えられる。それは、家族、友達、クラスメート、私たちが普段一緒に仕事をしたり、遊んだりしている誰かのように、多くの異なったグループの間で、口伝えや模倣などによって受け継がれている。“Folklore”と言われれば、家族の伝統、たとえば、「どのように誕生日を祝うのか」や特別な言い伝え、秘伝の料理レシピなどが思い浮かぶかもしれないが、それだけでは事足りず、子守歌などの歌、リズム、民話、神話、ジョーク、ことわざ、子供たちがよくする、かくれんぼでさえもこの一部なのである。もちろん、ハロウィンや感謝祭などの地域ごとに特色のある祝日の祝い方の違いもこれに含まれている。
また、このような“Folklore”は「どこでどのようにして見つけたのか」や「どういう意味が込められているのか」などと、いくつかの形式でわけてみるとよい。
そして、学校や家、近所の周りを歩き、何か見つけたり、聞いたりしたら書き留めておくことが、驚きの発見へとつながるかもしれない。ただ見聞きするだけではなく、それを記しておくことが、他の失われた自身の歴史や地域の話の記録の一助となる場合もあるのだ。それと合わせて、記録するときには、「地図」を作成し、次のようないくつかの質問をするとよい。①いつ、どこで生まれ、どこで育ったのか ②あなたが覚えている何か特別な家族や地域の祝い事はあるか ③それらの祝い事と関係しているゲームや料理のレシピ、ことわざ、歌、話などはあるか ④祝日や家族の伝統と関係しているいくつかのお気に入りのレシピはあるか ⑤あなたが幼い頃に誰かが歌ってくれた子守歌などはあったか、歌の歌詞や誰があなたに歌って聞かせていたか思いだすことができるか、その歌は家族の伝統と関わりがあるのか などだ。
また、このような質問をすると同時に、さらに詳細な情報を自身で探す必要がある。さらに、インタビューをする際には、インタビューした相手の思い出などを時系列timelineで記録するとよい。このようなインタビューは“Oral history”と呼ばれ、今日、民俗学者文化人類学者、作家、芸術家、歴史学者たちによって活用されている。
先ほど冒頭部で、「“Folklore”は様々な人びとによって定義づけられてきた」と記したが、実際、アメリカ合衆国に位置するThe University of Missouri-Columbia(ミズーリ大学・コロンビア校)のホームページによると、1884年にイギリスのHenry B. Wheatleyは「フォークロアとは、記録されていない人々の知識である」と定義している。それから87年後の1971年には、Dan Ben Amosが「フォークロアとは、小さなグループでの芸術的コミュニケーションである」とし、さらに15年後の1986年、Jan Brunvandは、「フォークロアとは、文化のうち、伝統的で非公式的な部分のことである。それらは言葉や慣習によって伝達される伝統的な知識、理解、態度、仮定、感覚、信念などをすべて包含する」と定義している。1994年には、New York state council on the artsが、「フォークロアは、民族的背景、地域、職業、年齢、信仰のような共通のアイデンティティを共有するグループによって行われている。これらには、たくさんの文化的表現、音楽による伝統的な演奏や踊り、劇、伝統的な物語を話すこと、その他の言葉の芸術、祭り、伝統的技術、視覚による芸術、建築物、装飾品、環境形成の変化、物質的民俗文化の形式などが含まれている」としている。
2007年には、American Folklore Societyが、「フォークロアとは、伝統的芸術、文学、知識、オーラルコミュニケーションや行動を通して広範囲に広まっている慣習のことである」とし、また、人々が伝統的に信じ(believe)、行い(do)、知り(know)、作り(make)、伝える(say)もののことだとも書かれている。具体例として、believeには、家族の伝統、doは踊りや音楽を作る、服を縫う、knowは、どのようにダムから水を引くか、どのように病人を看病するか、どのようにバーベキューを準備するか、makeは、建造物や芸術、技術、sayは、個人の経験談、なぞかけ、歌の歌詞などがあげられている。
この定義の変遷を見てみると、現代に近づけば近づくほど、フォークロアの定義に、“art”つまり、“芸術”という観点が盛り込まれているように考えられる。このことは、“Folk arts”として認識され、「あるグループの間で共有され、継承される伝統的で文化的な表現のこと」として考えらえている。また、“Folk arts”「生きた文化的遺産」として、は、過去と現在とをつなぎあわせることもしている。
例をいくつか挙げると、ハワイのフラダンスやプエブロ族(北米先住民)の詩、モン族の針仕事、テキサス州のメキシコ人のポルカなどである。彼らは、社会を構成する一部分として活躍し、その才能が評価されることで、社会的に活気づけられている。
最後に、“Folklore”とは、共通の文化が折り重なってできた、人々の生活を意味づける方法と関連している、新しい知識、世界での知識や経験を知る方法である。時には、これらは、我々が生まれてから死ぬまでのありふれた毎日や亡くなってからの過去と現在について言及されるものともなる。
そして、一番重要で忘れてはならないこと、それは、「フォークロアはすべての人が持っているもの」であるということである。


参考URL.

http://teacher.scholastic.com/writewit/mff/folklore_what.htm

http://teacher.scholastic.com/writewit/mff/folklore_finding.htm

http://teacher.scholastic.com/writewit/mff/folklore_your.htm

http://www.nyfolklore.org/tradarts/folklore.html

https://www.ucc.ie/en/bealoideas/study/folkexplain/

http://www.adamzolkover.com/what-is-folklore/

https://instructure-uploads-2.s3.amazonaws.com/account_15/attachments/839028/1308589734_991__Dundes%25252BWhat%25252BIs%25252BFolklore%2525253F.pdf?AWSAccessKeyId=AKIAJFNFXH2V2O7RPCAA&Expires=1453905816&Signature=kChZOeW%2FtVv8ST3hOC6SD5q4eEE%3D&response-content-disposition=attachment%3B%20filename%3D%22Dundes%20What%20Is%20Folklore_.pdf%22%3B%20filename%2A%3DUTF-8%27%27Dundes%2520What%2520Is%2520Folklore%255F.pdf

http://folklore.bc.ca

http://www.nyfolklore.org/tradarts/folk.html

http://www.library.illinois.edu/sshel/specialcollections/folklore/definition.html

http://folklore.missouri.edu/whatis.html