ストーリーテリングとネオ・フォークロア―市民民俗学の可能性―
安井 萌
【要旨】
本研究は、尼崎のネオ・フォークロア運動、なにわ語り部の会を対象に実地調査を行うことで、国内における「ストーリーテリング=語り」の状況を明らかにし、「聞き」と「語り」を結び付けることの可能性について述べたものである。本研究で明らかになった点は、次のとおりである。
1.アメリカのストーリーテリングは言い伝えやうわさ話、人から聞いた印象に残っている話などを語る。つまり「聞く」ことと「語る」ことが直接つながっている。
2.アメリカのテネシー州ジョーンズボロという町がストーリーテリングで町おこしに成功し、アメリカ国内のストーリーテリングの復興のきっかけとなった。
3.国内で行われる「語り」は昔話や民話を語るのが一般的であり、聞き手と語り手がはっきり区別されている。「聞き」と「語り」が分離されている傾向がある。
4.1990年代後半に、尼崎で研究者たちが地域の人びとの語りを集め、記録する「ネオ・フォークロア運動」と呼ばれるものが行われていた。市民による街の歴史や文化についての聞き取り、調査、記録作業を浸透させることを目指して『ネオ・フォークロア入門』という本が出版された。
5.「ネオ・フォークロア運動」自体は現在まで続いてはいないが、尼崎の街の歴史や文化にフォーカスした取り組みは行われている。その一つとして、大学と連携しているまち歩きがある。
【目次】
序章 ―――――――――――――――――――――――――――――5
第1章 なにわ語り部の会――――――7
第1節 ストーリーテリングとは何か----------------7
第2節 なにわ語り部の会----------------7
第3節 語り部たち----------------9
第4節 禅定 正世氏----------------13
第2章 ネオ・フォークロア運動 ――――――――――――19
第1節 ネオ・フォークロア運動とは何か------------------------19
第2節 『ネオ・フォークロア入門』-----------------------------21
第3節 ネオ・フォークロアの現在----------------25
第3章 市民民俗学の可能性――――――――――――――――31
第1節 「新しい野の学問」-------------------31
第2節 市民参加型民俗学------------------------------------------------------33
結語―――――――――――――――――――――――――――――35
文献一覧―――――――――――――――――――――――――――37
【本文写真から】