関西学院大学 現代民俗学 島村恭則研究室

関西学院大学大学院 現代民俗学 島村恭則研究室

手織りアートの創出―泉州で生まれた「さをり織り」の事例―

手織りアートの創出―泉州で生まれた「さをり織り」の事例―
山田 早織

【要旨】
 本論文は大阪府和泉市において創出された新しい手織り「さをり織り」について、その創始者、城みさを氏が「さをり織り」を生み出した経緯と、それがその後どのように人々の間に広まっていったのか、について明らかにしたものである。今回の研究からわかったことは以下の通りである。

1.さをり織り創始者は、城みさを氏である。
2.昔から繊維・織り物産業が盛んであり、手織りを始めやすい環境だった。
3.さをり織りの根本となる「自由に」という考え方は、疎開中に自分で開発した、自由に生ける生け花の経験から生まれた。
4.手織りを始めようと思ったきっかけは親孝行の為だった。
5.新たな手織りとして認められたのは、心斎橋の老舗呉服店の店主が作品を気に入り、店に置いたことがきっかけだった。
6.さをり織りで使用する機や、糸は堺精機産業で作られている。堺精機産業は、工場用の部品を作る会社だったが、みさを氏が手織りを始めたこと、繊維産業の衰退を経て、現在はさをり織り専門に変化した。
7.「売れる作品」を作ることよりも自分の好きな作品を作りたかったのと、友人たちに教えた経験から、もっとたくさんの人にさをり織りを教えたいと思い、店に作品を置く為に織ることをやめ、たくさんの人にさをり織りを教えることに専念するようになった。そして、体験した人たちの口コミによってさをり織りは広まっていった。
8 .さをり織りは、自由に織れ、決まりがないので、障がい者の手織りとして国内外に広く普及した。現在、海外では「NEW TRDITIONAL WEAVING」として障がい者だけでなくたくさんの人に親しまれている。

【目次】
序章――――――――――――――――――――――――――5
 第1節 問題の所在・・・・・・・・・・・・・・・・・・6
 第2節 泉州の繊維産業・・・・・・・・・・・・・・・・6
第1章 独立以前――――――――――――――――――――9
 第1節 城みさを氏・・・・・・・・・・・・・・・・・・10
 第2節 さをり織りの創出・・・・・・・・・・・・・・・12
第2章 道具と技術―――――――――――――――――――15
 第1節 道具・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・17
 (1)機・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・17
 (2)部品・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・20
 (3)糸・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・23
 第2節 技術・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・29
 (1)糸の変化を楽しむ織り・・・・・・・・・・・・・・29
 (2)特殊な織り・・・・・・・・・・・・・・・・・・・31
 (3)独自の織り・・・・・・・・・・・・・・・・・・・32
第3章 広まり―――――――――――――――――――――37
 第1節 教えること・・・・・・・・・・・・・・・・・・38
 (1)自由に織る・・・・・・・・・・・・・・・・・・・38
(2)全国へ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・39
(3)グループ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・42
第2節 障がい者の手織り・・・・・・・・・・・・・・・43
第3節 世界の「SAORI」・・・・・・・・・・・・・・・44
結語――――――――――――――――――――――――――47
文献一覧――――――――――――――――――――――――49

【本文写真から】

写真1 さをりの森外観

    写真2 さをりの森1階にある(株)堺精機産業内にある機の組み立て作業場

    写真3 (株)堺精機産業内にある糸を巻き直す機械

写真4 さをり織り独自の織り技で織られたタペストリ























写真5 さをり織りを特集したアメリカの雑誌

【謝辞】
本論文の執筆にあたり、たくさんの方にご協力をいただきました。
お忙しい中、ライフヒストリーや、さをり織りについて聞かせてくださった城研三氏。快く迎え入れてくださった城みさを氏、さをりの森のスタッフの皆様、堺精機産業の皆様にお礼申し上げます。また、上記以外の方々にも、調査にお力添えをいただいたすべての方にこの場を借りてお礼を申し上げます。本当にありがとうございました。