関西学院大学 現代民俗学 島村恭則研究室

関西学院大学大学院 現代民俗学 島村恭則研究室

突放−鉄道貨物作業員の「技」の世界−

突放−鉄道貨物作業員の「技」の世界−
高山 斉明


【要旨】
本研究は鉄道貨物作業員の「技」について、小樽、比奈(静岡県)、東藤原(三重県)を主なフィールドとして調査を行った。それにより、鉄道貨物作業員がどのような「技」を使って、貨物列車の運行を支えているかを明らかにしたものである。本研究で明らかになった点は、次のとおりである。

1. 国鉄時代、貨物列車の運行に欠かせない駅構内の貨車入換え作業では、作業を効率的に行うため、 鉄道貨物作業員による職人的な「技」が多用されていた。
2. 入換えで多用されていた「技」が突放(トッポウ)とよばれるものである。
3. 突放は、機関車で貨車を推進運転中に切り離し、惰性で動く貨車へ作業員が飛び乗り、ブレーキを かけることでその貨車を停車させた。
4. 突放をうまく行うためには、経験とそれを積み重ねる過程で磨いた感覚が大切であった。
5. 輸送形態の変化や機械化が進む中で、事故が多発し、個人の技量に左右される突放は次第に行われ なくなったが、岳南鉄道三岐鉄道といった一部の鉄道では、現在(2012年1月)でも突放による入換 えが行われている。
6. 岳南鉄道三岐鉄道では、突放に加えて、そこから派生した「技」が用いられることで効率的な入 換えが実現している。



【目次】

序章――――――――――――――――――――――――――1
 第1節 鉄道貨物作業員と「技」・・・・・・・・・・1
 第2節 貨物列車と構内入換え・・・・・・・・・・・2

第1章 国鉄――――――――――――――――――――――8
第1節 小樽築港駅、手宮駅の概況・・・・・・・・・8
第2節 突放の事例・・・・・・・・・・・・・・・・9
第3節 「技」の語り・・・・・・・・・・・・・・・11
 (1)散転 11
 (2)ハンプ作業 16

第2章 岳南鉄道――――――――――――――――――――22
第1節 比奈駅の概況・・・・・・・・・・・・・・・22
第2節 突放の事例・・・・・・・・・・・・・・・・23
第3節 「技」の語り・・・・・・・・・・・・・・・25
(1)ける 25
(2)当て流し 27
(3)引き離し 29

第3章 三岐鉄道――――――――――――――――――――32
第1節 東藤原駅の概況・・・・・・・・・・・・・・32
第2節 突放の事例・・・・・・・・・・・・・・・・34
第3節 「技」の語り・・・・・・・・・・・・・・・35
 (1)2丁切 35
 (2)流す 38

結び――――――――――――――――――――――――――43

写真一覧――――――――――――――――――――――――45

図表一覧――――――――――――――――――――――――56

参考文献・URL一覧―――――――――――――――――――61



【本文写真から】


写真1 上口氏によるブレーキングの実演(小樽市総合博物館)。

写真2 機関車からコンテナ車が突放される(比奈)。

写真3 突放されたコンテナ車にブレーキをかける(比奈)。

写真4 タンク車が突放された瞬間(東藤原)。

写真5 突放されて駅構内に入るタンク車(東藤原)。



【謝辞】

本論文を執筆するにあたって、多くの方に協力いただいた。特に上口衛氏、山崎敏隆氏、安田守氏、大久保秀和氏、増田尚氏、澤野信之氏、武田晃宏氏、奥野浩二氏、坂本俊氏には貴重な時間を割いて調査に協力していただき、非常にお世話になった。この場をかりて心より感謝申し上げる。その他、現地で協力していただいた方々すべてに深くお礼申し上げる。