関西学院大学 現代民俗学 島村恭則研究室

関西学院大学大学院 現代民俗学 島村恭則研究室

渡海船と島の人々−芸予諸島の事例−

渡海船と島の人々−芸予諸島の事例−

 三木 奈々美

【要旨】
 本研究は渡海船について、瀬戸内海に浮かぶ芸予諸島をフィールドに実地調査を行うことで、渡海船の変遷と現状、また渡海船が島民の生活にどのように関わっていたかを明らかにしたものである。本研究で明らかになった点は、以下のとおりである。

1.渡海船は当初、他の島や今治への荷運びを補う役割として始まった。その後、地域での必要性や要請に応じて徐々に数を増やし、当初の役割とは異なる役割も担うようになった。

2.渡海船は海上タクシー、救急艇、頼まれた荷物を買ってきて依頼主の自宅まで届けるメッセンジャーなど様々な役割を担い、「島の便利屋さん」といわれる存在だった。

3.渡海船が衰退した理由としては、「フェリーが就航したこと」というのが最も多い意見だった。他には船主の高齢化、船の老朽化、橋の開通などが理由として挙げられた。

4.今治市と島を行き来していた最後の渡海船は、2010年6月で運航を終了した。

5.渡海船が姿を消してからも、渡海船が担ってきた役割は現在も引き継がれている部分がある。その役割は陸送、商店など様々な形で島に残っている。


【目次】

序章 調査地の概況───────────────────────────1

第1章 渡海船とは───────────────────────────9

 第1節 渡海船とは....................9

 第2節 渡海船の概況...................10

第2章 渡海船の役割──────────────────────────24

 第1節 渡海船の基本的な役割...............24

 第2節 渡海船の特殊な役割................25

第3章 渡海船をめぐる人々───────────────────────27

 (1)宮窪町の村上千鶴子さん 27

 (2)宮窪町の苅田ヤエコさん 28

 (3)伯方町の阿部素子さん 29

 (4)伯方町の村上俊春さん 30

 (5)吉海町の野間作一さん 32

 (6)吉海町の藤本喜久子さん 33

 (7)関前村の村上義弘さん・幸さん 34

 (8)吉海町の矢野日出夫さん 36

第4章 渡海船の現在──────────────────────────52

 第1節 渡海船からトラック運送へ.............52

 第2節 渡海船から商店へ.................54

結語──────────────────────────────────59

 文献一覧───────────────────────────────60


【本文写真から】


写真1 渡海船・伯方丸の船内




写真2 渡海船・高島丸




写真3 荷物を保管していた高島丸の倉庫




写真4 高島丸から転換した高島運送のトラック




写真5 村上義弘さん宅に訪れる島の人々(村上さんが今治から持ち帰った物を買いに来る)


【謝辞】
 実地調査の際には多くの方々にご協力いただいた。村上千鶴子さん、苅田ヤエコさん、阿部素子さん、村上俊春さん、野間作一さん、藤本喜久子さん、村上義弘さん・幸さん、矢野日出夫さんには貴重なお時間を割いてインタビューに答えていただいた。村上水軍博物館の田中謙さんをはじめとした学芸員の方々、今治市役所の中村真悟さん、村上正博さんにはインタビューできる人を紹介していただき、案内まで引き受けてくださった。吉海町郷土文化センターからは写真や資料を提供していただいた。しまなみ配送センターではお仕事中にも関わらず、トラックの写真を撮らせてもらったり、お話を聞かせていただいたりした。改めて、ご協力を賜った全ての方々に心より御礼申し上げる。