関西学院大学 現代民俗学 島村恭則研究室

関西学院大学大学院 現代民俗学 島村恭則研究室

佐野踊りと泉佐野

佐野踊りと泉佐野

永田拓也
 

【要旨】

本研究は、泉佐野に起源があるとされる「佐野踊り」が発展した要因と、「佐野踊り」と都市「泉佐野」の関連性について、また、泉佐野を対象とした実地調査を行い、そこから見える「佐野踊り」の民俗性を把握することを目的とした。

本研究で明らかになった点は、つぎの通りである。

1.「佐野踊り」の発展要因として、当時の泉州地域、特に泉佐野というまちにおいて、紡績業が盛んであり、それと同時並行して商業が活発化したことが挙げられる。これは、経済的な側面としての影響も大きいが、紡績業に携わる多くの女工さんが泉佐野に住んでいた、という事実が影響している。

2.紡績工場や盆の夜には性の民俗文化が存在し、それは泉佐野でも同様であり、「佐野踊り」を純粋に愛する者ばかりが参加していたのではなく、当然のことながら、女工さんなどの、異性との出会いを求めて佐野の盆踊りを訪れる者もいた。つまり、当時の「佐野踊り」は、宗教的側面を包含する行事であると同時に、泉佐野に住む人々の生活の中での数少ない「ハレ」の舞台であった。

3.盆踊りや民謡などの伝承文化・芸能に共通して言えることは、「その土地で生まれ、その土地で育つ」ということである。よって、泉佐野における産・工業の不振、または、宅地開発などによる土着民の減少といったような、近年の泉佐野の状況が、「佐野踊り」の衰退に影響を与えている。

4.盆踊りは「じぶんが楽しみ、みんなと楽しみ、よりいいものに工夫し、踊りたいだけ、踊ることができる」すぐれた舞踊であると同時に、多種多様な娯楽で溢れかえった現代の受身的な「見る聞く文化」とは対極にあたり、それは「佐野踊り」においても、衰退の要因となっている。


【目次】

はじめに ………………………………………………………………………1

序章 泉佐野というまち ――――――――――――――――3
 第1節 都市泉佐野の概況と空間構造……………………………………3
 第2節 泉佐野の成り立ち…………………………………………………9

第1章 民謡 ―――――――――――――――――――――19
 第1節 民謡の定義…………………………………………………………19
 第2節 大阪府の民謡………………………………………………………32
  (1)  大阪府の民謡の特性 32
  (2)  各種民謡の概説 35
   ア)労作歌
   イ)祭り歌・祝い歌
   ウ)その他民謡
  (3) 民謡集 40

第2章 盆踊り ――――――――――――――――――――73
 第1節 盆踊りの定義………………………………………………………73
 第2節 大阪府の盆踊り……………………………………………………76
 第3節 泉州地域の盆踊り…………………………………………………80

第3章  佐野踊り ―――――――――――――――――――88
 第1節 佐野踊りの概要……………………………………………………88
  (1)  由来 88
  (2)  踊りのかたち 89
 第2節 音頭集………………………………………………………………90
  (1)  佐野踊り音頭集 90
  (2)  音頭に見る「佐野踊りと泉佐野」 118
 第3節 佐野踊りの盛衰……………………………………………………124
 第4節 佐野踊り保存会から見る現在の佐野踊り………………………128

結 語  ―――――――――――――――――――――――――137

文献一覧 ――――――――――――――――――――――――138


【本文写真から】


写真1 旧佐野町場の町並み

写真2 宅地開発が進む旧佐野町場(元町13付近で撮影)

写真3 佐野踊り保存会の練習風景


【謝辞】

本論文を完成させるにあたって、多くの方々にご教示を賜りました。特に、佐野踊り保存会の会員の方々には、当時の話を聞かせていただいたり、盆踊りの練習にも参加させていただき、本当に感謝の気持ちで一杯です。保存会会長である松田さんや、今津さん、松本さんなど、保存会の会員の方々をはじめ、本論文に関する調査に協力してくださった方々に、この場を借りて深く御礼申し上げます。