関西学院大学 現代民俗学 島村恭則研究室

関西学院大学大学院 現代民俗学 島村恭則研究室

「いただきさん」の民俗誌ー港町高松における鮮魚行商人ー

「いただきさん」の民俗誌―港町高松における鮮魚行商人―

日野秀哉

【要旨】
本研究は、香川県高松市で鮮魚行商人として活躍されている「いただきさん」について、香川県高松市浜ノ町・瀬戸内町、岡山県玉野市宇野地区をフィールドに実地調査を行うことで、「いただきさん」とはどのような仕事を営まれている方なのか。また、高松や宇野で「いただきさん」として活躍されている方のインタビューや「いただきさん」としての一日を追うことで「いただきさん」の世界を明らかにしたものである。

本研究で明らかになった点は以下の通りである。

1.全国各地に鮮魚を行商される方がいる中で、「いただきさん」を最もよく表している特徴は地元では「横付け自転車」または「横付け」と呼ばれるサイドカーに魚を載せて行商を行っている点にある。
2.「いただきさん」が使用する「横付け自転車」を開発・改良したのが地元高松の自転車店「B&Cまえだ」を経営されている前田正文さんである。
3.「いただきさん」が使用されている「横付け自転車」には、限られた販売スペースで効率的に販売するために、個々の「いただきさん」のこだわりや工夫が詰まっている。
4.「いただきさん」の起源は「糸より姫」の伝説に由来しており、高松市浜ノ町に所在している「糸より神社」には「糸より姫」の伝説を紹介する案内板や像が設けられている。
5.「いただきさん」の魚の運搬方法が時代の経過と共に向上していく中で、「いただきさん」をされる方の人数は大型スーパーマーケットなどの進出により、現在大幅に減っている。
6.現在「いただきさん」の仕事をされている多くの方が地元高松の「高松中央卸売市場」で仕入れた魚を高松の商店街の一角などで販売されている一方で、昔からフェリーを用いて岡山県玉野市宇野まで出向いて販売されている方がいる。

【目次】

序章 「いただきさん」のいる街「高松」.............................1


第1章 「いただきさん」とは?......................................5
第1節「いただきさん」の定義........................................5
第2節「いただきさん」の村「瀬戸内町」と「浜ノ町」..................7
第3節 糸より姫と「いただきさん」..................................10
第4節「いただきさん」の歴史........................................13


第2章 「いただきさん」を支える「横付け自転車」(横付け)..........23
第1節 横付け自転車生みの親 「B&Cまえだ」店主前田正文さん........23
第2節 横付け自転車の秘密..........................................26


第3章 現代の「いただきさん」の一日とライフヒストリー...............31
第1節 高松片原町商店街の「いただきさん」 小倉美佐子さん..........31
第2節 海を越える「いただきさん」 大浜信子さん 川口期代美さん....36


まとめ.......................................................56


文献一覧............................................................58

あとがき............................................................59

【本文写真から】






















写真1 「いただきさん」の「横付け自転車」






















写真2 「いただきさん」専用の「横付け自転車」を開発された前田正文さん






















写真3 高松片原町商店街の「いただきさん」小倉美佐子さん






















写真4 フェリーの到着を待つ「横付け自転車」(岡山県玉野市宇野にて)
【謝辞】
本論文を卒業論文として完成させるにあたって、現役の「いただきさん」をはじめとする多くの方にご教示を賜りました。特に、「いただきさん」の「横付け自転車」について様々な話をしていただいた高松市扇町自転車店「B&Cまえだ」店主前田正文さん、高松片原町商店街で接客の様子や「いただきさん」の歴史について様々な話をしていただいた小倉美佐子さん、フェリーで岡山県玉野市宇野まで実際に同行させていただき「いただきさん」の一日を取材させて下さった大浜信子さん、川口期代美さんには「いただきさん」の論文執筆にあたり実に多くのことをご教示賜りました。この場を借りて御礼を申し上げます。