社会学部 3回生
岸上 祐梨子
【目次】
はじめに
1.室蘭市の漁業と漁村
2.イタンキ漁港
3.イタンキのウニ・ホタテ・ナマコ
(1)ウニ
(2)ホタテ
(3)ナマコ
4.結び
謝辞
参考文献
はじめに
北海道の南西部に位置する室蘭市は三方が海に囲まれ、太平洋側の津軽海峡を抜ける対
馬海流と噴火湾(内浦湾)側の千島海流の境目を持った栄養豊富な漁場に恵まれた地形をしている。室蘭市は「鉄の町」として有名であるが「製鉄だけじゃなくて、北海道の漁業といえば胆振地区¹!と言えるほど漁業もすごい。その胆振地区の中でも室蘭市のイタンキ漁港は一番魚が獲れる」とイタンキ漁港の漁業者は話す。本研究は、一番漁獲量が多く漁業者も多いとされる漁港、イタンキ漁港に焦点を当てた実地調査によって得られた情報を記述したものとなる。
胆振地区¹:胆振総合振興局のこと。北海道南西部に設置された北海道の総合出先機関。1948年制定の北海道支庁設置条例に基づき,胆振支庁として設立。2009 年制定の北海道総合振興局及び振興局の設置に関する条例に基づき,現名称となった。総合振興局所在地は室蘭市。所管区域は,室蘭市,苫小牧市,登別市,伊達市,豊浦町,洞爺湖町,壮瞥町,白老町,安平町,厚真町,むかわ町の 11 市町。
胆振地区(赤色の部分)
1.室蘭市の漁業と漁村
実地調査の焦点に当てたイタンキ漁港について記述していく前に、先ずは室蘭市全体の
漁業と漁村のことについて触れておく。北海道室蘭市にはイタンキ漁港の他に絵鞆漁港、追直漁港、崎守漁港(五十音順)の三つの漁港があり、全部で四つの漁港が存在する。平成 31年4月の現段階での室蘭漁業協同組合には正組合員 70 名、準組合員 15 名の計 85 名の漁師が存在する。漁業を行っている人の人数は漁港ごとに、イタンキ漁港 29 名、絵鞆漁港 25名、追直漁港5名、崎守漁港6名である。最年少の漁師は 27 歳で、一番ご高齢の方は 91 歳にもなる。個人事業主として漁師になってしまえば定年退職の概念はなくなるため、漁師は自分の好きなだけ続けることができる職業であると言える。早朝から仕事が始まることがほとんどの漁師の家は 60 軒ほどあり、自分が漁を行う漁港の近隣に住む人が多いようだ。漁港によっては室蘭漁協自営定置番屋という県外から来た漁師の方々が生活を送ることができる、シェアハウスのような施設がある。この番屋も漁港のすぐそばの場所に位置している。 室蘭の漁業と漁村についてはこれぐらいにして置き、これ以降は私が焦点を当てて現地調査を行ったイタンキ漁港について詳しく記述していく。
2. イタンキ漁港
室蘭市全体の地図(青い印がイタンキ漁港)
イタンキ漁港は室蘭市の東側に位置している。レポート冒頭の“はじめに”も記載した通り、室蘭市内で一番の漁獲量を誇っており、漁業者の人数も一番多いのがイタンキ漁港だ。漁港のすぐそばに一家に一軒の組合漁業の賃貸倉庫があり、倉庫は漁を行うための道具を置く物置場としてだけではなく、ホタテの養殖に使う網の修理や捕獲したウニの大きさを測る選別作業を行う作業場としても利用されている。 年中仕事がある漁師の方々のお休み事情はというと、毎週日曜日が休みになっており、また、一年で 200 日以上漁業に従事するという規定を満たせば日曜日以外も休むことは可能だそうだ。やはり北海道は冬の時期は寒さや雪で漁を行うことが難しいようだ。私が現地調査を行った6月ではバフンウニ、むらさきウニ、ホタテ、ナマコの漁が行われていた。続いてそのウニ、ホタテ、ナマコを通してイタンキ漁港の漁の様子を記述していく。
① 車を使って船を陸にあげる
④のウニの選別というのは、ウニの大きさを7センチ以上のもの、5センチ以上のもの、5センチ以下のものの三種類に分ける作業である。ほとんどは漁師さんの熟練の目によって手際よく分けられるが、判断することが難しいサイズのものはウニ専用のものさしを使って確認される(画像2)。5センチ以上のウニは市場に運ばれるが、5センチ以下のウニは海に返す決まりになっている。 私が訪れた前日は陸取だったそうで口頭だがその漁の様子を知ることができた。陸取の時はスーツを着て素手でウニを獲るそうだ。船の上は基本的には女人禁制とされており、満潮時の漁は男性の漁師が船に乗って行うが、陸取は一家族に一人であれば女性も漁を行うことができるそうだ。
調査中に倉庫でゆっくりとウニの選別を行っているご夫婦がおり、話を伺っていると「せっかく遠方から来たから」と、獲れたてのバフンウニを試食させてくださった(画像3)。イタンキ漁港で獲れるウニはとてもクリーミーで濃厚な味わいだった。生まれて初めて食べたウニが室蘭市で獲れるバフンウニとはとても贅沢なひと時だった。ウニのえさは昆布だそうで、昆布がたくさんいる岸で獲れるウニがより良いものが多いということがわかった。 試食中、ウニの中には必ず5つ身が入っているということに気が付いた。市場へウニを運ぶ時間が迫っていたので当時はそのご夫婦に聞くことができず、関西に帰宅しなぜ5つなのか調べた。結果ウニは棘皮動物というグループにまとめられていて、生殖巣が房状に5つになっているからだということが分かった。自分の中の疑問を自分の力で解決するのも現地調査の醍醐味の一つだと感じた。
とれたてのウニ(画像3)
ホタテはイタンキ漁港だけではなく、絵鞆漁港、追直漁港、崎守漁港でも行われている。イタンキ漁港ではホタテを養殖する際に、「ざぶとん篭」という篭状の網を使用して稚貝を育てている。私は偶然にも倉庫でホタテの養殖に使う「ざぶとん篭」を修理している親子と出会い、お話を伺うことができた。 この「ざぶとん篭」を使ってどのように養殖するのかというと
① 5~6月に成貝が産卵し、ホタテの幼生が浮遊幼生²となって海中を漂い始める
「ざぶとん篭」を海に下ろす際は、あみ同士の接触によって網が傷つくことや、中に入っている貝に傷をつけないよう、海底に接触しないようにしなければならない。また、成貝にするためには「ざぶとん篭」から稚貝を取り、別の作業へと移行する必要がある。3年という長い期間はただ待つだけではなく貝を磨く作業や天敵から守る努力を続ける必要がある。長い時間をかけて育てるということは手間もかかれば、天災のリスクだってある。環境の変化に伴い成貝にすることが難しくなってきており、イタンキ漁港ではリスクを減らすためにも稚貝まで育てたものを売るという方法を主にとっている。そのイタンキ漁港で育てた稚貝を組合長の室村氏にご厚意でたくさんいただいたが、食べてみると身がぷりぷりしていて、ぎゅっとしまった歯ごたえあった。私が人生で食べてきた中で一番おいしいホタテだった。
浮遊幼生²:海水中を泳ぎ回るプランクトン生活をする幼生のこと
ナマコは 10 月~6月半ばの間漁が行われている。ナマコはかつて低価格のものとして扱われていたが、現在は中国での需要が高まり高級品として扱われている。そのためイタンキ漁港でも盛んに漁が行われていた。環境や時代の変化に伴って獲れる魚、売れる魚が変化していくのは面白いなと感じた。
水揚げされたナマコ(画像7)
4.結び
る地形に恵まれており、そこには4つの漁港が存在しているということ。一番漁業者が多く、一番漁獲量が多いとされている私が調査において焦点を当てたイタンキ漁港では、6月にウニ・ホタテ・ナマコを中心に漁を行っているということだ。イタンキ地区の漁業者の方が最後に私にこう話した。
「昔高く売れていたカレイが今では安く、昔安く売れていたナマコが今では高く
売れています。環境の変化によって獲れる魚も当然変わってきます。今獲れる魚
達にも付加価値を付けて高く売り出していく、そんな知識を使いながら漁を行う
時代がそろそろやってくると私は思います」
ベテランの漁師でもあるその漁業者の長い目で見た漁業に対するこの見解は、これからの漁業を担っていく若い世代の漁師の方々に一日でも早く一人前になって頑張ってほしいというエールであった。まだない発見や環境や時代の変化に合わせた新たな発見が室蘭市にはあるだろう。