島村ゼミ3回生によるフォークロア研究文献解題
【解説担当者より】
今回、『日本民俗学』から論文を選ぶにあたり、数ある論文の中から自分が関心を抱いているワードが入っているものに着目していった。3本に絞った論文をみると、1本目と3本目には「家族」という共通ワードが入っている。解説担当者は、家族は一番身近で分かりやすくイメージしやすいグループであると考えている。そこで今回は家族にスポットを当ててみた。今後、家族がもつ機能や家族の内部そして家族がもたらすものなど、民俗学的に家族研究をしていきたいと思っている。そして、2本目に選んだ論文は「伝承」というワードに着目した。行事・生活・文化など何においても伝統は存在する。伝統は伝承があって存在する。そのために、歴史学や民俗学にとって重要な材料である伝承に着目した。今回3本の論文を読むことで新しい知識や見解を獲得し、新たな疑問が浮上することが多くあった。今後フォークロア研究をしていく上での大事な材料にしたい。(吉川奈緒子)
■青木隆浩「伝統的家業における家族労働の歴史的変化―戦後の酒造経営を事例として―」『日本民俗学』229号、2002年。
(1)著者について
青木隆浩 2000年に東京大学にて学士博士を取得。2002年から国立歴史民俗博物館で助手、そして助教を経て、現在准教授を務めている。総合研究大学院大学文化科学研究科日本歴史専攻の准教授も併任している。歴地理学・人文地理学・文化人類学を研究分野としている。
(2)対象
戦後の酒造経営をする家族労働が対象
(3)フィールド
埼玉県と栃木県の中小酒造家
(4)問題設定
既存研究では、家ないし家業と企業の間に「日本的経営」や「家の論理」という概念を通じてあたかも共通する組織的な原理があるかのように論じられることがあった。しかし、家業と企業の間あるいは各業種間には労働力の編成や営業活動、利益や技術に対する権利関係、歴史的な盛哀の変化など様々な違いがある。そこで、家業が社会制度や文化規範によって維持されているか否かを問題として設定した。
(5)方法
文献調査、データ調査
(6)ストーリー
家業が社会制度や文化規範によって維持されているかどうか紐解いていく。はじめに酒造家を取り巻く外的状況の推移を確認する。外的状況として挙げられるのは、酒造経営の変化を導いた諸条件や新興勢力の出現。そして、それに対する酒造家の状況判断と活動内容を紹介している。各々の酒造家がさまざまな手段で苦難の乗り越えてきたことが伺える。最後にその活動を支える労働編成と生活方法が、「杜氏のいる生活」「杜氏のいない酒造り」「仙 禽酒造の例」の3パターンで記載されている。
(7)結論
戦時・戦後統制により、大正時代に低迷した灘の酒造家が清酒の等級化と流通規制を通じて急速に成長し、一方で第二次世界大戦以前まで安定経営をしていた地方酒造家が政策に対応する組織に転換したことで販売力を弱めたことを確認した。特に流通ルートの規制が地方酒造家によって大きな障害になっていたため、そのルートにあまり乗れなかった小規模酒造家は、新しい市場を求めて1970年頃までタブーとされていた価格破壊ないし小売店への直売を断行するのに有利な立場にあった。また、小規模酒造家の家族経営は価格破壊をするうえで生産コスト有利であり、かつ直売を断行する上でも社長の自由な営業活動を支えるための基盤を築いていた。つまり酒造業において、家族経営は社会制度や文化的価値観の存在に関係なく、新しい市場を開拓するために有利な組織形態であった。現在、高度成長以前の小規模酒造家は、生産量の面で上層に位置するまで成長を遂げ、低価格酒大量販売に向けた製造設備の拡充と生産コスト削減、または小売店直売に向けた販売力の拡充に努力している。一方で経営規模を拡大せず、家族労働によって経営を維持する酒造家もある。
(8)読み替え
社会制度や文化規範に