関西学院大学 現代民俗学 島村恭則研究室

関西学院大学大学院 現代民俗学 島村恭則研究室

宮古島調査実習

11月6日〜11日の5泊6日間、沖縄県宮古島をフィールドにゼミ合宿を行いました。

ゼミ生それぞれが事前に、宮古島調査の個人テーマを決め、下調べをしたうえでそれぞれの現地調査に臨みました。活動日程は以下の通りです。


6日 ― 宮古島の市街地・平良の巡検
    宮古伝承文化研究センターにて佐渡山安公氏からのレクチャー、夕食会
7日 ― 個別調査
8日 ― 個別調査
9日 ― 伊良部島良浜にてユークイ見学
10日― 個別調査


【6日】
 1日目は午前8時の飛行機ということで、朝早い出発でした。神戸空港から那覇空港まで約2時間、那覇空港から宮古空港まで約1時間弱で宮古島に到着します。やはり宮古島は暖かく、半袖でもちょうどいいくらいの気候でした。

宮古空港から市街地に向かう途中の風景から、サトウキビ畑や広大な土地や自然が窺え、さっそく宮古島らしさを感じることができました。宿泊施設に到着後、市街地である平良を歩いて巡検しました。歩いていると多くの御嶽に出逢います。御嶽とは琉球の信仰における聖域のことで、神が存在する場所であるとされ、多くの祭祀が行われます。伝統的に、神に仕えるのが女性であることから、男子禁制であるなど、数多くのタブーが現在も残っています。一般的に森のようになっていたり、少し異様な雰囲気であったりすることから、わたしたちもすぐに「ここは御嶽だ」とわかるようになるくらい、スピリチュアルな不思議な空間でした。


この御嶽には鳥居が見えます。戦前の日本は国家神道を唱え、その普及のために鳥居を多く建てました。御嶽は神が降臨する聖地であり、神道や神社とは全く関係ありませんが、当時政府は御嶽を神社とみなし鳥居を設置していきました。戦後、撤去された鳥居もありますが、ここは当時のものがそのまま残っている御嶽でした。
次に市街地の中心部である西里通りに向かうと、観光人向けのお土産屋や琉球泡盛で有名な「菊之露」があったり、お酒大好き県民ならではのユーモラスなものなどがみられました。


宮古島市公設市場に向かうと、まず宮古島のキャラクター、“みやこまもるくん”に出逢いました。ここでは魚“グルクン”、“あぶらみそ”、“うずまきパン”などあらゆる宮古島特産物をおばあが販売していました。


巡検後、宮古島のスーパー「サンエー」にて買い出しをし、宮古伝承文化研究センターに向かいました。そこで宮古伝承文化研究センター長である佐渡山安公氏から「宮古島の神と人」のレクチャーとして、宮古島に伝わる「神歌」の世界を描くドキュメンタリー映画『スケッチ・オブ・ミャーク』を見たり、お話を聞いたりしながら夕食会を行いました。また個人研究のアドバイスを受け、それぞれが翌日からの研究に向けてさらに意識を高めることができた良い会になりました。


【7〜8日】
それぞれが個人研究のフィールドに向かい、聴き取り調査を中心にフィールドワークを行い、調査を行いました。
 夜8時からは皆が一同に集まり、調査報告と翌日からの調査計画をするミーティングを3、4時間かけて行いました。

【9日】

 この日は先生を含むほとんどの生徒が伊良部島を訪れました。この日、伊良部島では非常に運が良いことに伊良部島で伝統的に続いている『ユークイ』(豊年祭)が行われていました。また、この行事は前日から行われているということを現地の方からお聞きし、ゼミ生のうち5人は前日から徹夜で行事に参加していました。5人が徹夜で居た大主神社はとても神秘的なところで、そこでは様々な非日常な現象が起こると聞いていました。この場を借りて彼ら5人が体験した不思議な体験について紹介したいと思います。

一、 ありえない場所から石が降ってくる
 ゼミ生の竹中君が神社の中でビデオをまわしていたときのことです。彼は神社の祭場の横から背を人の背ほどの高さまで石や土で固められ、その上を人が立ち入れないほど植物が生い茂った場所に向けて撮影していました。そのとき、彼の後方から石がパラパラと落ちる音がしたそうです。そのことを同じ場所にいたゼミ生は見ていました。そしてその音の正体も見ていたのです。
 彼らは竹中君の横の誰もいないところから竹中君の後方へ石が飛んでいったと言うのです。しかし石が飛んできた方向には確実に誰もいません。しかし飛んできた石は竹中君以外、しっかりと目に捕らえ、石が竹中君の後方の土に当たりパラパラと音を立てて落ちていく音は竹中君本人も含め全員聞いていたのです。
 このとき、伊良部島で徹夜していたメンバーの全員はこの神社、行事はなにか不思議な力を持っているかもしれないという思いは、不思議な力を持っているという核心に変わりました。

二、 聞こえるはずのない音
 それは深夜2時ごろのこと、伊良部島メンバーは休憩のために集まっていました。そのとき、伊良部島メンバーの小林さんと竹中君が突然「海のほうからエンジン音が聞こえる。」と言い始めました。他のメンバーは耳を澄ませてみてもエンジン音は聞こえてこなかったそうです。それにその時間帯に船が海に出ているはずもありません。どうしても聞き間違いだと思われるのですが、その二人の耳には確かに聞こえているそうです。
 これは後ほど宮古島研修が終わってからわかったことですが『ユークイ』行事の最中にこの世の『ユー』(豊穣)が船に乗ってやってくるという言われがあるそうです。そしてこのときの音は見えない人にも聞こえるそうです。竹中君と小林さんはこの見えない『ユー』を乗せた船の音を聞いたのだと思われます。

このような体験と遭遇しながら、伊良部島メンバーは徹夜をしながら祭事に参加しました。

朝、先生含むほとんどの生徒が伊良部島に到着し、徹夜組と合流し『ユークイ』に参加しました。私たちは残りの行事をフェリーの最終便の時間まで一緒に参加させて頂きました。


島の人達はとても暖かい人達ばかりで見知らぬ私たちにもお菓子や飲み物をわけて下さり、踊りに誘って下さり、徹夜をしていると感じさせないほど明るく、気さくで思いやりを持って接して下さいました。

『ユークイ』という珍しい行事に立ち会えたという喜びはありますが、それよりもこの行事を通しての人との出会いに喜びを感じた一日となりました。


【10日】
 調査最終日の10日は個人研究の最終調査を行いました。また、調査が終わった人は自由に観光したり、買い物をしたり、と宮古島滞在最終日を満喫した人もいました。私は調査が終了した夕方から、とても美しいと有名なパイナガマビーチに行ったり、「宮古の産業まつり」に行き、地元の人と話してみたり、伝統工芸品を鑑賞したり、宮古島特産物を食してみたりと宮古島を体で感じてきました。


 宮古島最終日の夜は宮古島郷土料理屋の「あぱら樹」にて夕食会をしました。それぞれが自分の研究をやりきった清々しい顔での乾杯となりました。郷土料理屋とだけあって、グルクンの唐揚げや海ブドウ、ゴーヤの天ぷら、ソーメンチャンプルーなど宮古島らしい料理が並びました。おいしい料理に舌鼓し、自分の研究や宮古島での出来事などの話に花を咲かせていると、隣の部屋から「オトーリ」を始める声が聞こえてきました。「オトーリ」とは宮古島で行われる飲酒の風習で、車座になって泡盛を飲む宴会などで行われるものです。一つのグラスで、一人一杯ずつ注がれたお酒を順に飲んでいくものです。わたしたちも真似てオトーリに挑戦してみたところ、皆が参加するためたいへん盛り上がりましたが、長く続けることは大変で、宮古人のお酒の強さを再確認しました。


それぞれがしっかりと自分の研究について語ることができ、そしてそれぞれが話者や調査に協力してくださった多くの人と信頼関係を築くことができ、約1週間の滞在でそれぞれが大きなものを習得できたと感じた最終日でした。

 約1週間をかけてゼミ生それぞれが、多くの宮古島の人と関わり、自分の研究テーマを調査してきました。初めての地で、初めて出会う人への聞き取り調査で困難なこともありましたが、滞在して日々調査を進めることでやり方をつかんでいき、大きく成長できたゼミ合宿ではなかったかなと思います。宮古島の方々は皆がほんとうにやさしく、多くのことを教えてくださいました。協力してくださった皆さん、ほんとうにありがとうございました。今回の調査でお世話になった方々や出逢った現地の方々との縁を絶やさず、これからの研究を進めていきたいと思います。
それでは次回以降でそれぞれの研究調査報告を行いますので、どうぞご覧ください。