関西学院大学 現代民俗学 島村恭則研究室

関西学院大学大学院 現代民俗学 島村恭則研究室

宮古島佐良浜のユークイ

宮古島良浜のユークイ

小林 遥

【要旨】

 本論文は、沖縄県宮古島市良浜地区をフィールドに、伝統的祭祀「ユークイ」について実地調査を行うことで、その実態を明らかにした。また、佐良浜の神ニガイが2012年度を最後に中断したことを受けて、存続の危機にさらされている神ニガイと、ツカサンマの就任拒否についても聞き取りを行った。
本研究で明らかになった点は、次の通りである。

1. 沖縄県宮古島では古来より、女性神役の活躍により各地で神ニガイが行われてきた。佐良浜地区もその一つである。佐良浜池間島からの移民によって形成された池間添と、後に形成された前里添の2つの地区からなっており、それぞれに神ニガイを取り仕切る女性神役「ツカサンマ」が3人ずついる。ツカサンマは池間添、前里添合同で、年に50以上ある神ニガイを行う。その中でも最も規模が大きい神ニガイがユークイである。ユークイとは豊年祭である。また、この日はユークイを卒業するインギョーの儀式も行われる。

2. 筆者は佐良浜に足を運びユークイを実際に見学した。佐良浜のユークイは旧暦9月の甲(きのえ)、乙(きのと)の日に行われることになっており2012(平成24)年は、11月8日、9日に行われた。参加したのは池間添、前里添のツカサンマ6人と、ツカサンマの先輩であり一代前のツカサンマであるアニンマ、希望して参加するナナスンマ4人、そして昭和31年生まれのインギョーンマ65人である。

3. 宮古島には神ニガイが途絶えてしまった地域がある。狩俣のユークイ、ウヤーンの中断、西原の神役就任拒否などが挙げられる。原因は人口の減少、家族形態の変化よりも、神役候補者が就任を拒否しやすい環境ができあがったことと言ったほうが正しい。

4. 今回フィールドとした伊良部島の佐良浜地区でも、古くからユークイを始めとする神ニガイが女性神役によって行われていたが、現在存続の危機にさらされている。1998(平成10)年に選出されたツカサンマのうち、1人が病気のために任務を果たせないということで、代理のツカサンマが選ばれたが、就任を拒否したため、ツカサンマが揃わず、2000(平成12)年まで一度中断した。そのときに一度、ツカサンマが守るべき規律の見直しなど、制度の改変が行われた。その後新しいツカサンマが選出され、神ニガイは再開された。しかし、選出された者全てが就任した訳ではない。何名かは就任を拒否し、後に選ばれた者が引き受けるということもあり、この先のツカサ選びも難航することが予想されていた。

5. 筆者がユークイを見学した2012(平成24)年は、ツカサンマの任期が3年目だった。2013(平成25)年のツカサンマを決める井戸ニガイで、前里添、池間添それぞれでツカサンマを3人選出したところ、どちらもカカリャンマに選出された女性が就任を拒否した。2人、3人とくじで選んでいったが、3人目まで全員拒否したため、これ以上選出するのは不可能だと判断した。これまで6人で神ニガイを行ってきたが、池間添、前里添両方のカカリャンマが欠けてツカサンマが4人になってしまったため、年に50回ほどあるニガイはミャークヅツを除いて全て行われなかった。

6.  「宮古島の神と森を考える会」のシンポジウムにも参加された福里美江さんにお話を伺った。ツカサンマの就任拒否に関して、以下の原因が考えられた。ツカサンマが出ないことには、選出すること自体が難しくなってきていること、選出されても就任を拒否する者が増えてきていることの2点が関わっている。まず、選出すること自体が難しくなってきている原因として挙げられるのは人口の減少である。また、神ニガイは準備の日も含めると100日以上を要するため公務員など、融通が利きにくい職に就いている者はくじで選ばないことになっている。そして、ツカサンマの補助金として1か月に5000円を支払っている家庭の者もくじ下ろしで選ばないという制度があるため、更に選出可能な人数が減る。以上の3点が、神役候補者の減少による選出の困難である。
   
7. また、神の存在を信じ、恐れ、敬う者が減少したこと、一度就任拒否を受け入れたことで、神役候補者が断わりやすい環境をつくってしまったことの2点が就任拒否の直接的な原因となっている。候補者となる女性が減少すること以上に、こちらの問題の方が深刻である。

8. 2013(平成25)年度の暮れ、井戸ニガイで、2014(平成26)年のツカサンマが選出される予定だが、また同じように、候補者が就任を拒否する可能性が考えられる。11月24日に佐良浜で行われた「宮古島の神と森を考える会」のシンポジウムでは制度の見直しの必要性などが話し合われた。選出方法についても、新しく6人のツカサンマを選び直すか、ナカンマ、ウフンマはそのままでカカリャンマ2人だけを選ぶかのどちらかになる。


【目次】


序章 ―――――――――――――――――――――――――――――2

 第1節 問題の所在‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥2

 第2節 宮古島良浜の概況‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥2

第1章 ユークイ―――――――――――――――――――9

 第1節 ユークイとは‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥9

(1)宮古島とユークイ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥9

(2)御嶽‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥9

(3)神役の女性‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥15

 第2節 佐良浜のユークイ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥15

(1)佐良浜の神ニガイ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥15

(2)佐良浜とユークイ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥18

(3) ユークイを支える女性たち‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥20

(4) 8か所の御嶽‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥24

第2章 2012年のユークイ―――――――――――――――――─29

 第1節 11月8日‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥29

 第2節 11月9日‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥49

第3章 神ニガイの中断―――――――――――――――――─67

 第1節 ツカサンマの就任拒否‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥67

 第2節 元カカリャンマ 福里美江さんの語り‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥69

結語――――――――――――――――――――――――――――――75

文献一覧――――――――――――――――――――――――――――77

資料編――――――――――――――――――――――――――――79


【本文写真から】

写真1 ユークイが行われるナナムイ(大主神社・ウハルズ御嶽)

写真2 ナナムイに並ぶインギョーンマ

写真3 ウイラでニガイをおこなうカカリャンマ

写真4 福里美江さんのオヨシ帳


【謝辞】
 本研究は主に、聞き取り調査によるものだった。協力していただいた福里美江さん、佐良浜の皆さん、本当にありがとうございました。ここに記して感謝を表したい。