境のまち西院(さい)の近代史
尾崎有香子
【要旨】
本研究は、京都市右京区西院の現在に至るまでのまちの形成について、現地での実地調査を行うことで、純農村から工業地帯への飛躍的な発展と、その一方で生じる文化の衰退や朝鮮人労働者問題を明らかにしたものである。本研究で明らかになった点は、次のとおりである。
1.戦前から京都市工業は紡績関係が中心であり、西院も染色業が街の発展の基盤を築いた。
2.駅前屋台は、阪急西院駅の開業によって大阪やその他の地域から、工業地帯である西院に出勤する人によって利用された。
3.阪急京都地下線の開通は、西院駅の乗降客を増やし、まちの都市化を促進する要因であった。
4.西院に多数在住する朝鮮人は、戦前から公共土木工事や紡績工業に低賃金労働者として雇用されたことがきっかけで流入してきた。
5.西院の発展要因である友禅染色、阪急京都線地下鉄工事、どちらも朝鮮人労働者の従事無しには成功しなかったと言っても過言ではない。
【目次】
序 章 西院の概況・まちの形成――――――――――――――2
はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2
第1節 京都市右京区西院の概況・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2
第2節 地名に見る西院の起こり・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5
(1) 淳和院説 5
(2) 佐比の河原説 5
第1章 友禅染色――――――――――――――――――――12
第1節 京友禅の誕生と発展・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・12
第2節 京友禅と西院・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・17
第3節 弓山染工場 弓山 登さん・・・・・・・・・・・・・・・・・19
第2章 屋台――――――――――――――――――――――33
第1節 工場労働者と駅前屋台・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・33
第2節 「がんばり」 安藤彦三さん・・・・・・・・・・・・・・・35
第3章 阪急地下化による西院の変化―――――――――――43
第1節 阪急(旧・新京阪電鉄)西院駅・・・・・・・・・・・・・43
第2節 新京阪電鉄京都地下線工事・・・・・・・・・・・・・・・・・45
第3節 大林組と朝鮮人労働者・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・48
結 語―総括――――――――――――――――――――――64
文献一覧――――――――――――――――――――――――66
【本文写真から】
写真1 広い敷地を有する友禅染色工場
写真4 難工事の成功を称える額と、新京阪電鉄の発展を願う鷲のレリーフ
写真5 交通の要地としての現阪急西院駅
【謝辞】
本論文は多くの方々のご教示の下で完成するに至りました。貴重なお時間を何度も割いて頂き、ご自身のライフヒストリーだけでなく資料収集や写真提供をして下さった「がんばり」の安藤彦三さん、理学博士の小笹稔さん、弓山染工場の弓山登さん、突然の電話にも快く対応して頂いた西院小学校の石井正校長先生。また、折鶴会館の店舗の皆様、染色体験をさせて下さった橋本染工の皆様をはじめとする、ご協力賜りました全ての方々に心より御礼申し上げます。ありがとうございました。