関西学院大学 現代民俗学 島村恭則研究室

関西学院大学大学院 現代民俗学 島村恭則研究室

スターバックスで語る人生―西宮で生きた3人のライフヒストリー―

田部井美歩

 

 

【要旨】

本研究は、ある喫茶店に通う3人のライフヒストリ―を通して、西宮という街の暮らしの一面を明らかにしたものである。本研究で明らかになった点は、つぎのとおりである。

 

1.阪急電車に勤めていたTさんは、電車の運転の仕方を現在でも手に感触が残っているほど覚えていた。勤めていた当時の緊迫感ある雰囲気や人との関わりを感情豊かに話していた。幼少期から音楽や写真といった趣味が多様で、現在でも彩ある生活をされていることがうかがえる。

 

2.大手食品会社である日本ハムに勤めたNさんは、当時には珍しい海外を飛び回る仕事をしていた。アメリカ、中国で経験したことを一つ一つ思い出しながら話していた。脳出血で倒れてから現在の復帰に至るまで、妻への感謝を忘れない様子がうかがえる。

 

3.半世紀もの間縫製会社に勤め、現在も裁縫を趣味にしているKさんは、好奇心旺盛な性格を生かして店長や商品開発など多様な経験をしていた。西宮の街で過ごした高度経済成長期を事細かに覚えており、流行に敏感だった様子がうかがえた。

 

4.同じ時代を同じ土地で生きた3人でも異なる人生を歩んでいる一方で、西宮の街にゆかりのある職業や趣味を選択しているように、共通するものがあった。

 

5.西宮という街が3人の人生に関わることで、各々のライフヒストリ―を形成する一部の要素になっている。実際に「声」として生きた経験を聞くことで、独自性ある、西宮が個々人にもたらす影響が明らかになった。

 

 

【目次】

序章

 第1節 問題の所在

 第2節 ライフヒストリ―とは何か

 第3節 スターバックスコーヒー ららぽーと甲子園店の概要

 

第1章 阪急電車の45年

 第1節 末っ子として生まれる

 第2節 車掌を務めた10代

 第3節 運転手の苦悩

 第4節 阪神淡路大震災

 第5節 多様な趣味

 

第2章 日本ハムの工場長

 第1節 水産学部での経験

 第2節 海外を飛び回る仕事

 第3節 脳出血の体験

 第4節 毎日の習慣

 

第3章 裁縫に生きた半世紀

 第1節 鳥取で過ごした幼少期

 第2節 縫製との出会い

 第3節 西宮での高度経済成長期

 第4節 テナントの店長経験

 第5節 阪神淡路大震災

 第6節 現在の生活

 

結語

参考文献

謝辞

 

 

【本文写真から】

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インタビューする際に利用した座席

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Tさんが勤めていた阪急芦屋川駅

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阪急電車を退職後に配布される乗車券

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Nさんが勤めていた甲子園南にある日本ハムグループの工場群

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Kさんがテナントに勤めていた時に通っていたつかしん

 

【謝辞】

 本稿は、インタビューを受けてくださった3人の方々の協力がなければ完成には至らなかった。お忙しい中、スターバックスの常連である3人の方々には約3か月間もの間、何度もインタビューのお時間をいただいた。Tさん、Nさん、Kさんに、心よりお礼申し上げます。