社会学部 門田凌
【要旨】
本研究は、奈良県山添村、名阪国道沿いに位置する山添ドライブインの創業一家の来歴と国道とそれら利用者との関わりを明らかにしたものである。本研究で明らかにしたことは以下のとおりである。
1.奈良県山添村は県の北東部に位置し、東側で三重県と接する。村中央を名阪国道が走っており、村内に設置される3つのうち山添IC直近に山添ドライブインは位置する。山添ドライブインは辰夫氏、蓉子氏夫婦、その娘夫婦、富美代氏と康文氏家族で経営されている。名阪国道で唯一の家族経営のドライブインである。
2.創業者の辰夫氏は当初林業に従事しており、製材所勤務、材木商人として独立を経て、飲食業に職替えをする。林業から飲食業に転向したきっかけは林業の先行きの不透明性と女性がこの先従事し続けた時の体力的に厳しいことが予想されたからであった。
3.飲食業転向後すぐはドライブインではなく、名阪国道建設作業員のハンバが設置されたことを受け、彼らを相手にした食堂を開業した。当時、山添村各地に設置され、1000人ほど当地に来たという。その後、名阪国道開通と同時期に山添ドライブインは開業し、今日に至る。
4.名阪国道は三重県亀山市から奈良県天理市を結ぶ国道25号線無料バイパス道路である。計画最中、有料道路化問題やそれに反対する用地買収難航問題、予算削減問題など紆余曲折を経た。しかし、それらを克服し、ルート決定や用地買収、工事を含めて1000日で完成したことから千日道路とも呼ばれる。
5.山添ドライブインではうどんや丼ものなど通常メニューの他、ガラスケースに季節によって魚や揚げ物を常時5種類ずつ用意するほか、多種多様なおかずが用意されている。
6.山添ドライブインでは繁忙時間帯にはお客自身が前のお客の皿を片付けるなど店の手伝いをする。加えて、お店の会計は自己申告制である。ここではお店とお客の間に信頼と助け合いの文脈が存在している。
【目次】
序章 |
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はじめに |
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第1章 林業で生きる |
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第1節 山添村の林業 |
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(1)奈良県の林業 |
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①地理的条件 |
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②経済的条件 |
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③全国に対しての奈良県林業 |
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(2)山添村の林業 |
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①山添村 |
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②山添村の林業 |
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第2節 製材 |
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(1)伐採から製材まで |
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(2)山添村で素材生産者として働く |
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第2章 国道と食堂 |
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第1節 名阪国道の建設 |
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(1)戦後の道路と自動車事情 |
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①戦後の交通事情 |
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②自動車交通の増加とモータリゼーションの動き |
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③トラック輸送と自動車の増加 |
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(2)道路整備の状況 |
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①戦後の道路状況 |
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②その後の交通事情 |
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(3)名阪国道の生い立ち |
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①名阪国道建設計画 |
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②国道の必要性と効果 |
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(4)計画の内容 |
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①1000日で完成させるために |
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②ルートの決定 |
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③‘名阪国道’建設中止の危機 |
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④名阪国道完成 |
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⑤山添村と名阪国道 |
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第2節 吉田屋の開業 |
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(1)林業の引退 |
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(2)名阪国道建設作業員の「ハンバ」 |
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(3)「店をするさかいに」 |
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第3章 山添ドライブイン |
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第1節 ドライブインの仕組み |
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(1)山添ドライブイン |
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①ドライブイン開業 |
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②創業一家 |
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(2)店舗の構造 |
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(3)メニュー |
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(4)注文の流れ |
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第2節 やってくる人びと |
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(1)ドライブインの日常 |
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(2)昔よく見られた光景 |
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結び―総括と展望― |
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第1節 総括 |
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第2節 展望 |
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文献一覧 |
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【本文写真から】
写真1 山添ドライブイン
写真2 ガラスケースのおかず
写真3 店内
写真4 自家製出汁の玉子焼き
写真5 帳場のそろばん
写真6 調理場とカウンター
【謝辞】
本論文の執筆にあたり山添ドライブイン皆様には全面的にご協力をいただきました。お忙しい中、一家の来歴ついてお話してくださった富美代氏、自らの経験をお話してくださった創業者である辰夫氏、山添ドライブイン皆様のご協力がなければ本論文は執筆することが出来ませんでした。心よりお礼申し上げます。本当にありがとうございました。