関西学院大学 現代民俗学 島村恭則研究室

関西学院大学大学院 現代民俗学 島村恭則研究室

不動産40年―バブルにおける不動産開発を生きるー

社会学部 岡本あゆみ

【要旨】

 本研究は某不動産会社で実地調査を行い、同じ土地で生まれ育った不動産業者と大工がM市に移り、昭和から平成にかけてバブル社会の中で住宅開発に取り組んだというストーリーを、経験によって得た知恵に焦点を当ててまとめたものである。
 本研究で明らかになった点は、次のとおりである。

1.土地の価格には相場がないため、その土地への需要が上下することによって価格が変動する。それが顕著に表れた社会現象がバブルである。

2.一般的に知られている日本全国規模で起きたバブル(本文での第2次バブル)以前に、L市では日本列島改造論や某祭典などの影響で地価の大幅な変動が起きた。それが第1次バブルである。

3.A氏は第1次バブルに乗じて個人で不動産業を始めるが、そのバブルの崩壊によって大赤字を経験する。

4.A氏はM市で不動産に再挑戦するにあたり、不動産業の知識だけでは不十分と考え、当時大工をしていた昔からの友人、B氏を誘う。

5.A氏が不動産業の次のフィールドとしてM市を選んだ理由は次のとおりである。
 ①当時のM市の市場があまり大きくなく、発展の余地があった。つまり、今後住居の需要が高まる見込みがあった。
  ②M市は未開発だったため、土地が安かった。
  ③M市には多くの大手企業の社宅があった。特に、M市に近いO市にも製鉄所の構想を計画していた企業もあったため、転勤を迎える社員たちはその周辺に住宅が必要だった。
  ④戦後のベビーブームに生まれた団塊の世代が独立し、自分の持ち家を求めるころだったため、絶好の商機だった。
6.A氏の不動産業のノウハウ。
 ①仲介業者を通さず、土地の入手から住居の販売まで全て取り持つ。
 ②小さくても心理的に手の届きやすい住居の販売。
 ③売り建て。土地代が寝てしまうリスクが小さく、設計の面でお客の要望に、自由に応えられるというメリットがある。また、追加工事で利益を得られる。

7.A氏は、不動産業独特の税法や、矛盾だらけの商事の法に苦労するも、大きな困難を乗り越えていく度に自信が増し、不動産業のおもしろみと共に、経験を積むことの重要性を痛感する。


【目次】

序章・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1

第1章 A氏のライフヒストリー ・・・・・・・・・・・・・ 6
 第1節 A氏の学生時代...............7
 第2節 P市と第1次バブル.............8
 第3節 P市からM市へ.................9

第2章 生かされる知恵と経験・・・・・・・・・・・・・・・・・ 15
 第1節 不動産に必要な人材.............16
 第2節 不動産業のノウハウ.............17
 第3節 M市と第2次バブル.............19
 第4節 失われた20年.................20
 第5節 法と不動産.....................21

第3章 B氏のライフヒストリー ・・・・・・・・・・・・ 25
 第1節 B氏が大工になるまで.........26
 第2節 大工の弟子入り.................27
 第3節 C氏とY工務店.........33
 第4節 大工の知恵と文化...............39
  (1)建材...........................39
  (2)屋根...........................41
  (3)勾配...........................47
  (4)道具箱.........................47
(5)棟上げ.........................51
第5節 大工から不動産業者に..............54

第4章 X株式会社 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 56
 第2節 M市での青田売り................58
  (1)M市で不動産業をする理由.......58
  (2)住宅の販売方法.................61

第5章 M市にビルが建つまで・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 63
 第1節 M市という立地.................64
 第2節 一等地の仕入れ.................65
 第3節 設計と建築基準法...............68


結語・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 73

文献一覧・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・75


【本文写真から】













写真1 A氏とB氏が住宅販売のために営業をしていた社宅。














写真2 B氏が大工をしていたころに建てた家。写真のような屋根を入り母屋造りという。













写真3 X株式会社が売却した住宅が建ち並ぶ区域。



【謝辞】

 本研究の趣旨を理解し快く協力して頂いた、X株式会社のA様とB様に心から感謝します。私の質問について丁寧に答えて頂きありがとうございました。そして、経験を通して感じられたことや、人生で得られた貴重な知恵を熱心に説いてくださったお話を、心から楽しませて頂きました。また、昔のP市のことや大工職人のお仕事、稀有な不動産業の知識など、生きた語りをこのように文字にして残せましたことを、うれしく思っています。本当にありがとうございました。