関西学院大学 現代民俗学 島村恭則研究室

関西学院大学大学院 現代民俗学 島村恭則研究室

ユークイの祭祀組織―ユームチャを中心に―

ユークイの祭祀組織―ユームチャを中心に―
                       社会学部 0245 豊福啓人

【目次】

・はじめに

・第1章 ユークイに関係する人々

・第1節 登場人物

・第2節 ツカサンマ

・第3節 ユークイの始まり―インギョーンマ―

・第4節 インギョウする人の代理

・第2章 ユークイの裏方の人々「ユームチャ」―普天間一子氏―

・第1節 ユームチャ

・第2節 ユームチャの作る食事
    ●ユークイ当日の夕食
    ●昼食

・第3節 ナカマ御嶽に備えるオニギリ
    ●オニギリが出来上がるまで     

・結び



 
はじめに
 沖縄県宮古島市ではユークイという神様への祈りをおこなう神事が行われる。ユークイは「世乞い」という字をあてることができ、豊穣・豊漁を願う神事である。
 そのユークイが2012年11月8日から9日にかけて行われ、本調査はその日程に合わせて行った。ユークイは女性によるお祭りであり、6人のツカサンマという組織を中心に行われる。各地域にある神社や御嶽で歌を歌いながら神様に祈りを捧げるのである。
 今回は伊良部島の佐良浜地区で行われた2012年度のユークイに密着し、調査をおこなった。私はツカサンマと呼ばれるユークイにおいての中心人物を調査するのではなく、ツカサンマたちの補助役である「ユームチャ」と呼ばれる人々に注目し、調査をおこなっている。ユークイの祭祀組織の中で補助役であるユームチャを中心に論ずる。

第1章 ユークイに関係する人々

第1節 登場人物
 ユークイに関係する祭祀組織はツカサンマと呼ばれる6名の集団とナナスンマ・アニンマ、そして補助役であるユームチャによって構成されている。ツカサンマとは神くじ注1によって選出された、最上位のウフンマ・神歌を歌うカカランマ・ツカサンマの中での補助役であるナカンマの3役であり、各2名ずついる。
 ナナスンマとは47歳〜55歳の間で奇数の年齢の人がなることができる役割である。ナナスンマは希望性であり、年によってはナナスンマが一人ということもある。2012年度のユークイではナナスンマは4名だった。
 アニンマとは前任のツカサンマであり、ニガイ(願い)の補助・指導をおこなう人々である。
 ユームチャは各ツカサンマ・アニンマに1人ずつ付くマネージャーのような存在であり、食事の用意や何かあったときに手助けをおこなう。

第2節 ツカサンマ
 佐良浜のユークイをおこなう中心的なメンバーである。6名の内訳は本村(池間添)から3名、中村(前里添)から3名となっており、各村からウフンマ・カカランマ・ナカンマを1名ずつ選出する。ウフンマとはユークイをおこなう上でのリーダー的な存在であり、カカランマはニガイをおこなう際に神歌を歌う役割である。そしてナカンマはウフンマ・カカランマの補助をおこなう役割である。
6名の中にも階層があり、1番位が高いのは本村のウフンマであり、本村のウフンマ→中村のウフンマ→本村のカカランマ→中村のカカランマ→本村のナカンマ→中村のナカンマという順番になっている。どの御嶽でニガイをおこなうときも右から順にこの順番で並んでおり、食事や御嶽の中に入っていく順番などもウフンマが一番に行動をおこなう。

図1:ツカサンマの並び(右から本村のウフンマ)

第3節 ユークイの始まり―インギョーンマ―
 ユークイが始まるころにウハルズ御嶽にインギョーンマたちが集まった。宮古島には57歳になると一つの節目を終えたと考え、卒業するという考え方をしている。卒業することをインギョウするといい、インギョウする人々をインギョーンマと呼んでいる。
ユークイがおこなわれる日にインギョウをおこなう。そのため、伊良部島出身の満57歳を迎える女性はこのユークイに参加し、インギョウしなければならないのである。県外にいる人もユークイの日には伊良部島に帰省する。そしてユークイにインギョーンマたちは参加し、インギョウした後同窓会に足を運ぶことになる。
インギョーンマの服装は共通の着物を着ており、黄色の島草履を履いている。着物は毎年デザインが異なるがインギョウする人々は着物を揃える。黄色の草履は区長さんからのプレゼントである。
インギョーンマも本村と中村に分かれて整列し並ぶ。インギョーンマはインギョウブムという桶状のものを頭に乗せた状態で待つ。インギョウブムの中身は一升のご飯となまり節注22つ(なまり節はもっと多くてもよい)で、インギョウする瞬間まで頭に乗せたままである。またインギョウするまでの間はずっと立ち続けなければならず、この日は3時間ほど立ったままであった。
また整列するインギョーンマの中に種類の違う着物を着て並んでいる人がいるが、その人々はインギョウする人の代理である。

図2.3:ウハルズ御嶽前に集まるインギョーンマ

第4節 インギョウする人の代理
 インギョウを迎える人でも、身体的に問題があり伊良部島に帰ってこられない場合や何らかの事情により帰って来られない人の場合は代理人を送り、本人の代わりにインギョウしてもらうことができる。ただし、代理人を送る場合は条件がある。
 代理人の条件は必ずインギョウを終えている人であるということだ。つまり58歳以上の女性ということになる。この条件をクリアできていれば親族から知り合いまで、誰にでも代理人を任せることができる。
 なお、インギョウを迎える前に亡くなった人にも代理人を送る。その場合の代理人は親族がおこない、列には並ばずにお酒やご飯などのお供えものを御嶽の隅に置いて帰るのである。

第2章 ユークイの裏方の人々「ユームチャ」―普天間一子氏―

第1節 ユームチャ
 ユームチャは各ツカサンマ・アニンマについているお付の人である。ユームチャの主な仕事は食事の用意やツカサンマ・アニンマの送迎である。
 ユームチャたちは御嶽の中に入ることはできないため、各ツカサンマ・アニンマに何かあったときは、御嶽のなかの補助役であるナカンマから指示を受ける。また、ユームチャには服装に決まりはない。普天間一子氏は普天間氏の兄嫁が前任の中村ナカンマであったため、そのお付の人としてユームチャの役割をこなしている。ユームチャになる人は各ツカサンマの親族であり女性でなければならない。
 ユームチャも荷物を運んだりする際には頭の上に乗せて運ばなければならない。この荷物は自ら降ろすことは禁止されており、御嶽の手前でナカンマに取ってもらわなければならない。またツカサンマ・アニンマ・ナナスンマと同じように、ユークイがおこなわれている丸一日は睡眠をとることはできない。ユームチャはニガイの全てを見るわけではなく、ツカサンマ・アニンマ・ナナスンマが食事を終えると一度家に帰り、朝食の用意と翌日にナカマ御嶽にお供えするオニギリを作っている。

図4:ユームチャたち

第2節 ユームチャの作る食事
 ユームチャはツカサンマたちの食事を用意する。お弁当を作って持っていくのだが、そのお弁当に肉・魚を入れることはタブーである。しかし、ウインナーやハムなどの加工品はお弁当に入れてよいのである。つくるお弁当はツカサンマたちに食べてもらうものであるため、味見をしてはならないという決まりもある。

●ユークイ当日の夕食
 夕食も当然ユームチャたちが用意するが、この夕食にはカカランマとナカンマが作ってくる一品も加わる。まず、カカランマが白ごはんのオニギリを作ってくる。これは神歌を歌いニガイをおこなうカカランマが白のオニギリを作ってくることで、神様に自分には汚れがないということを証明するためである。
 ナカンマは「オラウツのなます」というサツマイモの葉を使った一品を持ってくる。

図5:夕食の様子

朝食のオニギリは黒豆ともち米のオニギリである。オニギリは俵状に作り、必ずツカサンマの人数分の6個を作らなければならない。あとは肉・魚でなければ何を入れてもいいため、普天間氏は自分でメニューを考えていた。お弁当にいれたメニューはほうれん草のおひたし・ウインナー・卵焼き・レンコンのきんぴら・人参ハリハリ・かぼちゃの煮つけ・コロッケであった。これらも味見をしてはいけなかった。

図6:普天間氏が作った朝食のお弁当

●昼食
 昼食はウイラ御嶽でとっていた。メニューはソーミンチャンプルーとぜんざいである。ついてまわるユームチャたちは自由に食事をとる。
朝はゆし豆腐注3とコーヒー、昼食はぜんざいを食べていた。またおやつとして天ぷらを食べたりフキャギという黒小豆で覆ったお餅を口にしていた。

第3節 ナカマ御嶽に備えるオニギリ
 ユームチャたちはナカマ御嶽へのお供えものとして大きなオニギリをつくる。そのオニギリは黒小豆ともち米でつくるのだがとても大きい。1章のご飯を炊き、5合ずつにわけて2つのオニギリをつくるのである。
 このオニギリを作ることはユームチャだけの重要な役割となっている。
●オニギリが出来上がるまで
①ボウルにご飯を5合入れて、ボウルの中を転がしながら丸いオニギリを作っていく。なお、このオニギリを作る際に手にご飯粒がついたとしてもそれを口にしてはならない。

図7:オニギリを作っているところ

②オニギリを2つ作り、綺麗に形を整えると完成である。完成したものをナカマ御嶽に持っていきお供えする。

図8:オニギリ完成形

③オニギリをナカマ御嶽にお供えする。

図9:ナカマ御嶽に備えてあるオニギリ

このナカマ御嶽にお供えされたオニギリは早朝から置かれているが、8か所の御嶽をツカサンマたちが回り終えた後(20時ほど)でもお供えしたときと同じ綺麗な状態を維持しているという。
 猫や鳥たちがこのオニギリに近寄ることもなく、今までに崩れたことはないと言われている。また、この日の気温も25℃近くであったが、オニギリが腐るようなこともない。このオニギリは神様に守られていると考えられている。
 このオニギリは最終的にツカサンマ・アニンマ・ナナスンマ・ユームチャで食べる。たとえオニギリが雨で濡れていたり砂が混じっている場合でも全て食べるのが決まりとなっている。

結び
 今回の調査でユークイをおこなう祭祀組織がどういうものか理解できた。ツカサンマやアニンマ・ナナスンマ・ユームチャはそれぞれに役割がある。特に、ユームチャの普天間一子氏に聞き取りをおこなうことで、ユークイをユームチャからの視点で調査することができた。
 伊良部島良浜地区のユークイにおいてユームチャの役割は非常に大きいものである。



1:神くじ…ツカサンマを選出する方法である。佐良浜地区では夫の名前がかかれたくじを箱に入れておき、それをふるいにかけて落ちた人から順番に選出される。
2:なまり節…生のカツオを解体した後、蒸す・茹でるなどの処理をおこなった一次加       工食品。
3:ゆし豆腐…ゆし豆腐とは沖縄料理のひとつであり、にがりを入れて固まり始めた状態の豆腐

参考文献
真下厚,2003,『声の神話』瑞木書房
ユークイ(豊年祭) - ホテルてぃだの郷 / がじゅまる観光株式会社
http://gajumaru.info/yukui.html