関西学院大学 現代民俗学 島村恭則研究室

関西学院大学大学院 現代民俗学 島村恭則研究室

有馬花柳界の民俗誌

有馬花柳界の民俗誌
西本 理恵


【要旨】
本研究は、兵庫県神戸市北区有馬町をフィールドに実地調査を行なうことで、有馬花柳界のしくみを明らかにしたものである。本研究で明らかになった点は、つぎのとおりである。

1.有馬温泉には昔から花柳界が存在している。全国的に、花柳界は速いスピードで減少しており、有馬花柳界も芸妓の減少はあるが、以前と変わらぬ形で存在している。

2.有馬温泉置屋は、昔は15軒あったが、現在は田中席1軒のみである。現在、有馬検番は田中席と名称が合体し「有馬検番・田中席」と名乗っている。

3.有馬検番は現役芸妓で田中席のお母さんである田中一七四さんが運営している。

4.京都では、初めての客はお座敷を利用できない一見さんお断りのルールがあるが、有馬では宿泊客を相手にするため一見さんもお座敷を利用することができる。有馬の芸妓は京都と違い、顧客情報がないままお座敷へ向かうため、お座敷では客の好みや場の空気を瞬時に察知し、その客に合ったお座敷遊びを提供している。

5.有馬花柳界では、踊り、小唄、鳴物、長唄の稽古が行われており、年間を通じて、入初式、献湯式、節分、さくらまつり、浴衣会、川座敷、もみじ茶会、餅つきなどの行事が行われている。


【目次】

序章――――――――――――――――――――― 5
 第1節 問題の所在‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 5
 第2節 有馬温泉花柳界‥‥‥‥‥‥‥5
第1章 芸妓――――――――――――――――― 9
 第1節 昭和30年代 ‥‥‥‥‥‥‥‥ 9
 第2節 昭和40年代‥‥‥‥‥‥‥‥ 10
 第3節 平成以降‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 11

第2章 置屋――――――――――――――――― 13

第3章 検番――――――――――――――――― 18

第4章 お座敷―――――――――――――――― 23

第5章 芸能と行事 ―――――――――――――― 27
 第1節 稽古‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 27
 第2節 有馬をどり・浴衣 ‥‥‥‥‥‥‥ 30
 第3節 入初式‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 35
 第4節 川座敷‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 43

第6章 芸妓のライフヒストリー ――――――――― 45
 第1節 倖梅さん‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 45
 第2節 一七四さん‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 54

結語――――――――――――――――――――― 55


補論――――――――――――――――――――― 56
 1.花隈の花柳界‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 56
 2.宝塚の花柳界‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 56

芸妓体験の事例―――――――――――――――― 57

文献一覧――――――――――――――――――― 66

あとがき ――――――――――――――――――― 67


【本文写真から】



有馬検番の事務所





検番のお母さんは、この板を使って芸妓たちのスケジュールを管理する。





梓席の事務所





平成25年の入初式のようす



【謝辞】
有馬の花柳界卒業論文にぜひ書かせていただきたいと申し上げたところ、快く引き受けてくださった一七四さん、一瑠さんに謝意を表したい。
一七四さんから了解を得て、調査中はいろいろな稽古を見学させていただいた。稽古場では、師匠から、ほかの花柳界と比較して感じる有馬花柳界の特徴など貴重な話を聞かせていただいた。また、入初式に湯女として参加させていただいたおかげで、芸妓に近い目線で芸妓という仕事を知ることができた。
倖梅さんには、自宅にも招いていただき、そこでは写真をたくさん撮らせていただき本当に感謝している。
本研究を行うにあたり、たくさんの方にご協力をいただいた。最後まで立派な論文ができるようにと応援してくださった有馬検番のみなさまに、心からお礼申し上げる。