関西学院大学 現代民俗学 島村恭則研究室

関西学院大学大学院 現代民俗学 島村恭則研究室

Ⅴ.民族とは〜蘇羿如さんの話の記録〜

 
 蘇羿如さんは現地でサキザヤ族の研究を行っている研究員(国立東華大学多元文化教育研究所博士研究員)で、火祭り当日、村長さんの話の通訳や台湾における原住民族の研究のあり方など様々な事で説明をしてくださった。

台湾における原住民研究はまだまだ発展途上で、未だに陽の当たらない研究領域であると蘇さんは言う。理由は簡単で、台湾の人口を構成する大部分が大陸からの“外国人労働者”であり、人口比でいうとマイノリティである原住民よりもマジョリティの問題に対処するほうが数の上でニーズが高いからだ。蘇さんは元々都市の原住民族の暮らし、特に差別的待遇を受ける労働者に焦点を当てていたが、2007年サキザヤ族が13番目の原住民族として登録された一連の流れを受けて研究対象を移行したという。蘇さんがサキザヤ族に注目する理由は、サキザヤ族を通して台湾の原住民族全体を見ることができることにある。中でも、“原住民族”と定義されえないもっと細分化された日常生活の単位であり、血縁関係にある人々の生活空間である“Tribe”(“部落”と訳される)を重要視している。蘇さんによると、原住民たちが日常生活で所属意識を感じるのはあくまでこの“部落”の単位であり、“民族”とはあくまでコンセプトにすぎないのだという。日本、中華民国と外来政権による支配が続いた台湾では当初この“民族”の定義は一方的になされた。1945年―2000年にかけて9つに分類された原住民は、2011年までにサキザヤ族を含めた5民族が新たに認定され、現在14つに分類される。原住民たちはこの定義を理解はしているが、政府によって支援を受けるため認定されなければ成り立っていかない仕組みの中で、その定義を利用するという考えが強い。サキザヤ族の火祭りも4つの部落が参加していて単に“民族”的特徴ではなく、実は部族ごとのカラーがあるそう。蘇さんは、民族という概念が逆に複雑化させてしまった部分、部落ごとの日常生活、そこから生まれるアイデンティティに目を向けて継続して研究に打ち込んでいきたいと言っていた。



蘇さんの主要な著作は次の通り。

・『文化建構下的Sakizaya正名運動』博士論文、2008
・『撒奇萊雅族的生成歴程』学術論文、2009



担当:呉